The Classroom Visitation

「ねぇ、フェイトママ」

仕事から帰ってきてリビングでのんびりしていると、急にヴィヴィオに話しかけられた。
何やら深刻な顔をしている。ここは母親としてしっかりしないといけないところだ。

「どうしたの、ヴィヴィオ?」
「それがね、その、」
そこで言葉を詰まらせてしまう。

でも、言ってくれないと何を悩んでいるのか私には解らない。
……なのはのことだったら顔を見れば大体分かるんだけどなぁ。

「ヴィヴィオ、言ってくれないと解らないよ。それに、言葉にすれば悩んでることも解決するかもしれないし。だから、ね?」
「うん。・・・・あのね、明日授業参観なんだけど、」

そういえばそうだった。でも、生憎と明日は仕事が入っていて私は見に行くことができない。
なのはが行ってくれるけど、やっぱり私も行きたいよぉ。どうして明日に限って、執務官会議が入ってるのかなぁ?

「それでね、私、当てられたらって思うと……
こう見えてヴィヴィオは案外内気。
親しくなった人にはすごく明るいんだけど、知らない人の前だと緊張してしまうらしい。
分かるなぁ、そういうの。私もそうだったから。

「なるほどね。よし、じゃあ私の昔話をしてあげるよ。私も昔は授業参観とか苦手だったから」
「今は大丈夫なの?」
「うぅ~ん、大丈夫だと思うよ?」
何故か疑問形になりながら、私はヴィヴィオに昔語りを始めるのだった。

あれはそう、私がなのはの学校に編入してから3回目の授業参観。
前2回は仕事が忙しくて誰も来れなかったけど、その日は全員の都合がとれてしまったため、
母さんたち全員が来ることになっていた。

正直、私は授業参観が苦手だった。
そうでなくても私は授業中に手を挙げて発言することが出来ない子供だったから。
授業参観なんて、もっと無理に決まってる。
そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、なのはが私の顔を覗き込んできた。

「フェイトちゃん、大丈夫? 気分悪いの?」
「違うよ。ちょっと、緊張しちゃって」
「にゃはは、わたしもだよ。やっぱり緊張しちゃうよね」

そう言って少し恥ずかしそうに笑うなのははすごく可愛かった。
うん、なのはが見に来てくれるなら授業参観でも緊張しないで済みそう。
あっ、でも、逆にものすごく緊張しちゃうかも。
だって、なのはに見られてるんだよ。それだけで心臓がバクバクしてるに違いない。きっとそうだ。

「あっ、リンディさんたちが来たよ」
「えっ!?」
なのはの声に驚いて振り向くと、確かに母さんたちが来ていた。

母さん、エイミィ、クロノ、さすがにアルフはいないみたいだけど、みんないる。
あぅ、なんだか余計に緊張してきたよぉ。

「みんな来てるから、いいところを見せないとね」
「はぅっ!? へっ、変なプレッシャーかけないでよ」
「大丈夫だよ、フェイトちゃんなら」

楽しそうに笑うなのはに言われたら、何とかなりそうな気がしてきたから不思議。
でも体まではそうはいかず、依然として私の心臓は激しく鼓動していた。
かといって時は止まってくれない。
心臓の鼓動が収まることはなく、そのまま授業が始まった。

今日の授業は算数。
ミッド式の魔法を使っている私にとって、数学は基礎中の基礎。
特に解らないところもないし、何より今日は授業参観ということもあり、普段より授業は簡単だ。
そのためか、さっきからどんどん手を挙げて答える生徒が多い。

さっきはなのはが当てられてスラスラ答えていたし、今もアリサが完璧な回答をしている。
もともと目立つことが嫌いではないアリサはともかく、なのはもしっかりと手を挙げて答えていてすごいと思う。
後ろで見ている恭也さんのおかげかな。

(フェイトちゃん)
そんなことを考えていると、なのはが念話で話しかけてきた。
さすがに授業中に堂々と話すわけにはいかないから当然と言えば当然だけど、少し背徳感を感じてしまう。

(何、なのは?)
(フェイトちゃんも手を挙げようよ。せっかくリンディさんたちが来てくれてるんだから、ね)
そう言うとウィンクをして、笑顔を見せてくれるなのは。

でもまだ決心がつかない。
やっぱり間違えたら、という心配が心のどこかに残っているのだ。
そんな私の心中を察したのか、なのははもう一度話しかけてきた。

(じゃあ、次は一緒に手を挙げよう?それならいいでしょ?)
そこまで言われたらもう引くわけにはいかない。
それに今日はなのはだけじゃなくて、母さんたちも見てるんだ。
そう決心すると、不思議と緊張も解けてしまった。

そして先生の、
「では、この問題が解る人」
という言葉にも、しっかりと手を挙げることが出来た。

もちろんしっかりと、
「はいっ」
と言うことも忘れずに。

隣を見るとなのはもしっかりと手を挙げていた。
なのはも私の方を見ていてくれたようで、目が合うと思わず笑いが漏れてしまう。
後は当てられるかなんだけど、

「それじゃあ、……ハラオウンさん」
思いが通じたのか先生は私を当ててくれた。

多分、普段から手を挙げたりしないから当ててくれたんだと思う。
先生に指名された私は、ゆっくりと立ち上がって黒板に問題の答えを書きこんだ。
一度答えをチェックして、間違いがないことを確認してから先生に出来たことを合図する。

「出来ました」
「はい、正解です」
間髪入れず、先生が言った。

どうやら答え合わせをしている最中に確認したみたい。
少しだけ得意な気分になって席に戻ると、そこにはなのはの笑顔が待っていた。

(やったね。リンディさんたちも嬉しそうだよ)
チラッと盗み見してみると、確かに母さんが嬉しそうに笑っていた。
手を挙げてよかったかも。

(ありがとう、なのは。なのはのおかげだよ)
(フェイトちゃんが頑張ったからだよ)
そんなことを話しながら、私たちは次の質問に備えた。
もしかしたらもう一回、母さんたちにいいところを見せられるかもしれないから。

「こんなことがあったから、私は授業参観が大丈夫になったんだよ」
「はぁ~」
話し終わると同時にヴィヴィオがため息を吐いた。あれ、私何か変なこと言ったかな?

「どうしたの、ヴィヴィオ?何か解らないところとかあったかな?」
「ううん。フェイトママはそのころからフェイトママだったんだなぁって思っただけ」
「えっ?それってどういう、」
「なんでもないよ。でも、ありがとう。おかげで明日は頑張れそうだよ。お休み、フェイトママ」

私の質問に答えることなく、ヴィヴィオは自分の部屋に向かってしまった。
結局娘の言葉の意味が解らなかった私は、なのはが入ってくるまでリビングでポカンとしたままだった。

翌日の授業参観は大成功だったみたい。直接行くことはできなかったけど、なのはが教えてくれた。
家に帰ると、ヴィヴィオもそのことを自慢してきた。

2人ともすごく可愛くて、それはいいことなんだけど……、やっぱり私も行きたかったよぉ!!