Happiest? Father’s Day

疲れた。今日はいつにも増してハードな日だった。
はやてが探していた資料が見つからないからって、二人一緒にあっちに行ったり、こっちへ来たり。
最終的に見つかったからよかったものの、身も心もクタクタだよ。

でもそれももうすぐ解消される。我が家のドアを開ければ、そこにはオアシスが待っているはずだから。
「ただいまぁ」
返事がない。

別に今日の私は遅番じゃないし、なのはもいるはずだから、
ドアを開ければすぐにヴィヴィオかなのはの声が聞こえてくるはずだ。
ふたりして留守ということも考えられたけどリビングの電気は付いてるし、何よりドアが開いていた。
ということはふたりが中にいるのは明白だ。

不思議に思いながらも、私はリビングの扉を開けた。その瞬間、破裂音がした。

「へ?」
思わず間抜けな声を上げてしまう。執務官としては情けないかもしれないけど仕方ない。
だって我が家でいきなり破裂音がするなんて思ってもいないから。

「おかえり、フェイトちゃん」
「おかえりなさい、フェイトママ。どう、驚いた?」
眼をパチパチしていた私の前になのはとヴィヴィオが現れた。
どうやら、ふたりの悪戯に見事に引っかかってしまったみたい。
ヴィヴィオなんて、してやったりみたいな顔をしている。

「驚いたよ。ものすごく驚いちゃった。でも、ふたりともどうして? それに、クラッカーなんて」
「あぁ、これ?はやてちゃんの誕生日の時に使ったやつの残りだよ」
どうやらさっきの破裂音はふたりの手にあるクラッカーが発生源だったようだ。

確かに使わないと勿体ないけど、なんで今日なんだろう? 何かお祝いとかあったのかな?

「今日って、何かあった?」
「はぁ~。やっぱり忘れてるよ、なのはママ」
「仕方ないよ。今日はお仕事が忙しかったみたいだし」
なんだろう、やっぱり解らない。

だって特に大きな仕事が解決したわけじゃないし、何かの記念日でもなかったはずだ。
必死に考えを巡らせても、答えは出そうにない。

「じゃあ、そんなフェイトちゃんにヒントです。今日は地球で、6月の第3日曜日だよ」
「第3日曜日? って、まさか」
私の脳裏にひとつの答えが浮かんだ。
あまり認めたくないけど、戸籍上は一応私がそうなってるし、この前ヴィヴィオにもそう認定されたし。
何より、眼前の妻の笑顔が浮かび上がった答えが正しいと主張している。

「そう、父の日だよ。お父さん」
やっぱり。いや、もう諦めてるから大丈夫。だって私が一家の大黒柱なんだよ。
そんな私がお父さんなのは解ってるつもりなんだけど、おかしいな、なんだか視界が滲んできたよ。

「フェ、フェイトママ。きょ、今日だけだよ。今日だけ。ね、なのはママ?」
「も、もちろん。やだなぁ、フェイトちゃん」
「ぐすっ……ありがとう、ふたりとも」

ふたりの優しさに感動してしまう。うん、もう大丈夫。私は元気だよ。
こんなに可愛い妻と娘がいるんだもん。元気にならないと嘘だよね。

「もう大丈夫だから、早くご飯にしよう?今日は忙しかったから、お腹ペコペコだよ」
「ふふっ、フェイトちゃんらしいね」
「ホントだね~」

……何か言われた気がするけど、気のせいだと思う。きっとふたりの優しさだよね。
うん、きっとそうに違いない。

ふたりの言葉は気にせずテーブルに着くと、テーブル上には私の好物ばかりが並んでいた。
驚いて顔を上げると、そこにはなのはの笑みが。

「これって、私のために?」
「当り前じゃない。だって、父の日だもん。フェイトちゃんには体力をつけてもらわないとね」
「なのは……。愛してるよ」

妻の心遣いに答えないわけにはいかない。考えるより先に、私はなのはに抱きついていた。
久しぶりのなのはの感覚。この抱き心地が私に癒しの時間を与えてくれる。

「あの、フェイトちゃん。ヴィヴィオも見てるから」
少し恥ずかしそうにしながら言ってくるなのはをもっと抱きしめずにいられずにいようか。
当然、私にそんなことが出来る訳もなく、より一層なのはを抱きしめる。

「あの~、お熱いところ悪いのですが」
なのはを抱きしめていると、遠慮がちに声がかけられる。
腕の中からの声でないとすれば、答えはひとつしかない。妻と同じくらい愛している娘だ。

「ヴィっ、ヴィヴィオ!?」
「フェイトママ、せめてわたしが見てないところでお願いします。両親の仲が良いのは喜ばしいことなのですが、」
まずい、ヴィヴィオが敬語だ。もしかしなくても怒ってるみたい。どうしよう。

「……とりあえず、わたしを離してくれると嬉しいんだけど」
「ごめんなさい」
今度はしっかりとなのはのお願いを聞き入れる。そうしないと娘の怒りが増大しそうだから。

「あのね、ヴィヴィオ。これは仕方ないことなんだよ。だってなのはがものすごく可愛いんだよ。それにね、」
「解ってるよ、フェイトママ。フェイトママはなのはママのことが大好きだもんね。
でも、今度からは場所を考えてね。いいですか?」
「はい……」

ヴィヴィオにここまで言われちゃったら素直に頷くしかない。
よし、今度はしっかり場所を考えないといけないな。あんまり自信がないけど。

「解ってくれればいいよ。それでね、」
どうやら解ってくれたらしいヴィヴィオが何かを持ってくる。

「はい。これ、プレゼント。いつも、お仕事ご苦労様」
差し出されたのは、赤いリボンでラッピングされた小箱。

「ありがとう、ヴィヴィオ。開けてもいいかな?」
「勿論。喜んでくれるといいけど」
娘がプレゼントしてくれたものを喜ばないはずがない。
そんなことを考えながら、ラッピングを綺麗に外して箱の中を見る。

「これは、ネクタイ?」
「うん。地球じゃネクタイをプレゼントするものだって」
「ありがとう、ヴィヴィオ。大事にするね」
箱の中のネクタイを手に、ヴィヴィオに誓う。でも、これだけは言っておかないといけない。

「でも、ヴィヴィオ。来年は母の日にプレゼントが欲しいな」
「けどフェイトママって、ウチだとパパだよね?」
がーん。た、確かにお父さんだけど、でもそれはあんまりだよ。

「なのはぁ~、ヴィヴィオが虐めるよぉ~」
「でっ、でも、仕方ないよね。お父さんだもん」
妻にまでそう言われてしまう始末。こうなったら、もう自分の運命を受け入れるしかないみたい。
やっぱり私はお父さんなんだ。少なくとも今日だけは。

「解ったよ。今日だけは、私がお父さんだぁ~!」
私の声がリビングに響き渡ったのだった。

「ところで」
ヴィヴィオも寝静まった深夜。
なのはとふたりで軽くお酒を飲んでいると、不意に声をかけられた。どうしたんだろう。

「今日はずっとはやてちゃんと一緒だったみたいだけど、どうしたの?」
「えっ?はやてが探してた資料を一緒に探してただけど」
「ふぅん。じゃあ、これは何かな?」

なのはがそう言って差し出したのは、一枚の写真。その写真を見たとき、私は凍り付いてしまった。
差し出されたその写真には衝撃の映像が映し出されていたからだ。

「あっ、あのね、これははやてがふざけて、」
「でもフェイトちゃん、すごく嬉しそうだよ」
写真に写っていたのは、はやてがふざけて私のお尻を触っている場面だった。
しかも恥ずかしがっている私の顔が、角度のせいか喜んでいるように見えてしまっている。最悪だ。

「こ、これは、」
「妻として夫の不倫は防がないといけないよね、フェイトちゃん?」
「……お手柔らかにお願いします」
もう、どうしてこうなっちゃうのぉ!!

結局私の願いは聞き入れてもらえるわけもなく、
初めての父の日はある意味で忘れられないものになってしまったのでした。