It’s a Nyandorful day!

今私は医務室に向かって走っている。
なのはがそこに担ぎ込まれたということを知らされたからだ。
自分でも驚くような速さで、私は医務室の扉を開けた。

「なのはっ!」
ちょうどなのははベッドから起きたところだった。でも、様子が変だ。いつもと視線が違う。
なんだか、怯えているような視線で私を見ている。一体どうしたんだろう?

「なのは?」
今度は優しく呼びかけてみる。でも、ダメみたい。
私の声を聞いたなのはは、ビクッと肩を震わせるとシーツに包まってしまった。
私、何かなのはの気に障ることしたのかな?

「フェイトちゃん、来てくれたのね」
「シャマル……
なのはに避けられて意気消沈のところに医務室の主、シャマルが声をかけてきてくれる。

なのはの主治医の登場に、いても立ってもいられなくなった私は、掴みかかるようにシャマルに詰め寄っていた。

「シャマル、なのははどうしたの!? 一体何が、」
「ここは医務室なんだから静かにしないとダメよ。それに、ほら、なのはちゃんも怖がってるわ」
シャマルが指差したのはカタカタ震えているなのはの姿。
うん、とてつもなく可愛いんだけど、今はそんな状況じゃない。

とにかくなのはに一体何があったのか聞き出さないと。

「それでシャマル、何があったの?」
さっきのを教訓に、今度は出来るだけ小さな声で問いかける。するとシャマルは困ったような表情を浮かべた。

「う~ん、話すと長いのよね。簡単に言うと、転送ポートの異常が原因なんだけど……

話をまとめると、訓練終了後のなのはが転送ポートで帰ってこようとしたとき、
トラブルが起こってなのはにとあるデータが流れ込んでしまった、らしい。

どうしてそうなったのか全然解らないんだけど、とりあえず私がしなければいけないのは、
あとで転送ポート担当の局員にはきつく注意することだ。当然だよね、愛しの妻にこんなことをしたんだから。

「でも幸い、どんなに長引いても明日の夜くらいには完治するはずよ。流れ込んだデータ量が少なかったみたいだから」
「それならいいんだけど」
ちらりとなのはを見る。
私の視線には気付いていないようで、こうして見ているといつものなのはと変わりないように見える。

「で、シャマル。なのはにどんなデータが?」
「それがね、猫なの」
「猫?」
思わず声を上げてしまうと同時に、納得していた。
確かにさっきからの反応は猫らしいといえばらしいかもしれない。

ならばと、今度は猫に接するときのようになのはを呼んでみる。
「なのは、怖くないから。おいで」
目線をなのはに合わせて軽く右手を差し出す。今度は興味を持ってくれたようだ。
周囲を窺いながらもなのはは私の右手に手を乗せてくれた。まずい、可愛すぎる。そう思ったらもう止まらない。

私の左手は私の意志を離れて、なのはの頭を撫でていた。
最初は嫌そうにしていたなのはも、段々と撫でられたままになっている。

「にゅ~」
気持ちいいのか、声を上げるなのは。このまま死んでもいいかも。
そう思えるくらい、すごく気持ちよさそうな笑顔だ。

「お楽しみのところ、悪いんだけど」
なのはの表情に満足しているところにシャマルが声をかけてくる。
その声に驚いたのか、なのはは再びシーツに包まってしまった。

「シャマル、なんてことを!」
「落ち着いて、フェイトちゃん。それで、今日明日とどうする?
なのはちゃんを付属病院に送ってもいいんだけど、こんな状態でしょ?
よかったらフェイトちゃんが自宅療養させてあげて欲しいのよ。最近、休暇も取ってないみたいだし」

思わず声を上げてしまった私にシャマルが提案してきた。
確かに病院だとなのはがどんな反応をするか解らないし、何よりこんな可愛いなのはを他の人には見せたくない。
だったら連れて帰ったほうがいいのかな。でもそうするとヴィヴィオはどうしよう。

「それはありがたいけど、ヴィヴィオが……
「ヴィヴィオならウチで預かるわ。無茶をお願いしてるんだもの、これくらいはさせて」
ウィンクまでして言われたなら仕方ない。
ヴィヴィオを預かってくれるというシャマルにお礼を言いつつ、なのはを連れて家に帰ることにする。

「あ、フェイトちゃん」
医務室を出ようとしたとき、呼び止められた。何か忘れ物でもしちゃったかな。

「明日は休暇届けを出したほうがいいわよ。なのはちゃんとずっと一緒にいなきゃいけないんだから」
「うん、解ってるよ。帰ったら申請しておくよ」
シャマルにそう言い残すと、私はなのはと一緒に医務室を後にした。

 

家に帰ると、ヴィヴィオの音声メモが出迎えてくれた。
どうやらシャマルからは私たちが仕事で帰って来れないと知らされているようだ。
それはそれで助かるけど、ヴィヴィオが帰ってきたらちょっと怒られるかな。事前に言ってないから。

娘に怒られることを想像して少し気分が沈んだけど、それはそれ。とにかくご飯を作らないと。
ちょうどいい時間だし、なのははこんな感じだから私が作らないと。

「じゃあ私はご飯を作るから、なのははここで待ってて」
ソファに座らせてしっかりと言い含める。

一方のなのはは私の手が離れた瞬間、泣きそうな顔で私を見上げてきた。
理性を総動員して抱きつきたいのをなんとか我慢して、おかしくならない内にキッチンへ向かう。

さて、と何を作ろうかな。
「スパゲティあったかなぁ。それからポトフ……って、なのは?」
献立を考えている私の袖が遠慮がちに引かれた。
どうやらキッチンに来てしまったようだ。まったく困った猫さんだ。

「あの、なのは。そこにいられるとお料理できないんだけど」
そう言ってもダメ。袖を離そうとせず、首をフルフルと横に振るだけ。
ずるいよ、なのは。そんな顔されたら何も言えなくなっちゃうじゃない。

「解ったよ。じゃあ、少しだけ離れてて。大丈夫だよ、どこにも行かないからね」
ようやく解ってくれたのか、キッチンの端に移動してくれた。
ずっと見られていると視線が気になるけど、さっきよりはずっとマシだろう。
お料理が上手ななのはに見られていると緊張しちゃうけど。

 

なんとか予定通りの献立が出来たのは大分時間が経ってから。
それでも何とか料理の形に出来上がったそれをテーブルに持っていくと、席に着いた。
予想通り、なのはは私の隣に座ってくる。まぁ、いいんだけど。

「それじゃあ、いただきます」
しっかりと挨拶をしてから、スパゲティを口に入れる。少し茹で過ぎちゃったかな?
茹で上がる少しの時間、ずっとなのはの方を見てたのがいけなかったかもしれない。

なのははどうかな、と思って横を見ると全然手をつけてない。どうしたのかな? お腹空いてないのかな?

「なのは、食べないの? もしかして、お腹減ってない?」
質問に首を振って応えるなのは。

シャマルによると、言葉以外は基本的な生活を送る分にはなんの問題もないって言ってたけど、
やっぱりどこか調子が悪いのかもしれない。
一応シャマルに連絡しようとすると、なのはがすっと自分のフォークを私に差し出してきた。

あ、これは、ひょっとして、アレですか?

「なのは、自分で、」
フルフル。そして涙目。
逃げ道を閉ざされてしまい、仕方なくフォークを手に取り、スパゲティをなのはの口に持っていってあげた。

「あ、あ~ん。なのは」
パクッ、と食べるなのは。スパゲティが喉を通ると極上の笑みを浮かべてくれた。
よかった、味に問題はないみたいだ。するとなのはが、もう一回と言わんばかりに腕を優しく掴んでくる。
それと同時に顔も近づけてくる。心臓の鼓動が一段と跳ね上がった。

「いや、あの、そのね、なのは、」
言葉がしっかりと繋がらない。
それもこれも、なのはが可愛いからいけないんだ。
こんなに可愛いなのはの顔が、こんなに近くにあるのがいけないんだ。

慌てる私が面白いのか、なのはが笑い出した。でも、何か様子がおかしい。

「あははははは、慌てすぎだよフェイトちゃん」
「なのはっ!? あれっ、言葉が? えっ?」
突然普通に話しだすなのは。

目の前の状況がよく解らない私は混乱するだけだ。どうなってるの?
「ゴメンね、フェイトちゃん。実はアレ、嘘なの」
「嘘って、えぇぇぇぇ!?」
今語られる衝撃の事実。あまりのことに言葉が上手く出てこない。私の前で何が起こったっていうの?

「どっ、どうして、嘘なんか」
「だって、最近フェイトちゃん休んでないでしょ? それにあんまり一緒にいられなかったから、少しお芝居を、ね」
シャマルが「最近休暇を取ってない」って言ったのは私のことでもあったのか。まんまとしてやられた。

うぅ、みんなして酷いよ。確かに、最近休暇を取ってなかったけど……。こんなことするなんて。

「まったく……、なのはらしいね。でも、次からはこんなことやめてね。
嘘でもなのはが事故にあったなんて聞いたら、私すごく怖いよ」
「ごめんなさい。もうしないよ、フェイトちゃん」
しっかりと反省してくれたみたいだからもうこれ以上は何も言わない。

明日は休暇なんだし、せっかくなのはとふたりきりなんだから、楽しまなくちゃ損だ。
そう思ったのはなのはも同じだったようで、悪戯っぽい笑みを浮かべて話しかけてきた。

「ねぇ、フェイトちゃん」
「何、なのは?」
「さっきの続きをして欲しい、にゃ?」
「まったく、困った猫さんだね、なのはは」
その申し出を断れるわけもなく、私はなのはの口元にスパゲティを運んだ。

 

突然訪れた休暇はまだ始まってもいない。久しぶりにふたりきりで楽しまないとね、なのは?

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