高町ヴィヴィオの夏休み―ヴィヴィオの華麗な朝―

8月●○日

事件というものは、それを望んでいないとしても突然起こるものです。
そう、この事件も何の前振りもなく起こりました。それは夏休みの或る日、朝食後の出来事。

「ごちそうさまぁ」
「はい、お粗末様でした」
今日のなのはママは珍しくお休み。だからこうして、ゆっくりとした朝食を楽しむことが出来ています。
ちなみにフェイトママも今日はお休みなのですが、まだベッドの中にいるみたい。

昨日はずいぶん遅くに帰ってきてたみたいだから、もう少し寝かせておいてあげましょう。

それは置いておいて、朝食のあとには楽しみが待っています。

「ママぁ~、昨日買ったプリンは?」
「大丈夫、食べてないよ」
「当たり前だよ!あのプリンは限定品なんだから」
という訳です。

でも駅前のケーキ屋さんの限定プリンは、とても美味しいと評判の味。
実際、コロナのを少しもらった時のことを忘れられないくらいの味です。
そんなプリンを一個だけとはいえ、昨日ようやく手に入れられたのですから、楽しみにしようというものです。

「後でわたしにも頂戴ねぇ~」
「一口だけだよ」
ちゃっかりとしているなのはママに苦笑しつつ、冷蔵庫のドアを開けました。

なんでも一晩置くととても美味しくなるんだとか。それを楽しみにしつつ、ケーキ屋さんの箱を開けました。
箱の中には特製のプリンが、プリンが……プリンが、ない?

「あれ? ない?」

箱に入っていたはずのプリンがなくなっていました。
わたしが無意識に食べた、ということでもない限り、そこにあるはずなのです。
つまりわたし以外の誰かがプリンを食べたということ。

「なんだか、推理小説みたいになってきたなぁ」
そんなことを呟くとなんだかワクワクしてきました。
クリストフシリーズの影響かもしれません。

とにかく、目の前の状況確認をしなければ。
クリストフも『どんなに小さなことでも、目前の状況確認が一番の手がかりになる』といつも言っているのですから。

「って言ってもなぁ。証拠なんてないよね」
冷蔵庫に残っている空箱だけが今現在の証拠です。
特に専門家でもないわたしには、そこから何かを発展して考えることなんてできるわけがありません。

正直なところ、なのはママに聞けばすぐに答えが出てきそうなものですが、
それはそれで負けた気分がしてしまいます。
でも、八方塞がりなのもまた事実。さて、どうしたものでしょう。

『状況確認だけでは何も解らない? それは大きな間違いだ。
どんな些細なことにも、必ずつながりが存在する。例えば、食事は道具を必要とするだろう?
ならば、次にすべきことが浮かんでくるはずだ』
唐突にクリストフの言葉が浮かんできました。

そうか、プリンを食べたってことはスプーンを使ったということ。
家は環境に気を使っているから、お店のスプーンは使わずに自分用のスプーンを使う事になっている。
ということは、流しに答えがあるんだ!

答えが解ってしまえば、あとは一直線。すぐに流しのところを観察しました。
予想通り、そこにはスプーンがひとつ。昨日の夜はスプーンを使う食事はありませんでした。
ということは、このスプーンの持ち主が犯人です。って、やっぱりフェイトママのスプーンでした。

「まぁ、解ってはいたけどね」
わたしは当然除外するとして、さっきのなのはママの反応は明らかに何かを隠している反応ではありませんでした。
ということは消去法でひとりしかいないというわけです。

予想通りの犯人を見つけたわたしは、早速なのはママを問い詰めます。
フェイトママが帰ってきたのは昨夜遅く。当然のようにわたしは熟睡中だったわけです。

「で、どうしてフェイトママを止めてくれなかったのかな?」
「えっ、何の……ってやっぱりバレちゃってるよね?」
その言葉に大きく頷きます。
なのはママも隠し通せるとは最初から思っていなかったみたいで、真実を語ろうと口を開きかけました。
その時です。

「うぅ、頭痛いぃ~。なのはぁ~、お水ちょうだぁ~い」
何とも言いがたいような台詞とともにフェイトママがやって来ました。
どことなくフラフラしているように見えます。ということは、昨日お酒を飲んだみたい。
すべてが一本に繋がりました。

「はい、フェイトちゃん。お水だよ」
「ありがとう、なのは。愛してるよ」
聞いている方が恥ずかしくなるような台詞を平気で言えるのがフェイトママの凄いところ。
なのはママも慣れているはずですが、やっぱり顔を赤くしています。

そしてそんななのはママを気にせず、フェイトママは水を飲みます。
これで少しは大丈夫になったはずです。ならば、犯人の動機を聴く時間です。

「フェイトママ。わたしのプリン食べたでしょ?」
「えっ、プリン? うん、多分食べた……と思うけど」
どうやら無意識の行動だったみたい。というより、そんなになるまでお酒は飲まないでほしいものです。

フェイトママのことだから、上司さんの勧めを断れなかったのでしょうが、もう少し自重してくれてもいいと思います。
そこで助け舟を出すのがなのはママ。
どうやら、フェイトママに代わって説明してくれるみたい。わたしとしてもそっちの方がいいかな。
フェイトママ、辛そうだし。

それは昨日の夜遅くのことでした。
ヴィヴィオが眠ったのを確認すると、わたしはフェイトちゃんを待っていました。
今日は宴会があるから少し遅くなると聞いていましたが、それにしても遅すぎ。
もうすぐ日付が変わっちゃうよ。

本気で管理局に連絡しようとしたその時でした。

「たらいまぁ~、なのはぁ。愛する夫が帰ってきましらよぉ~」
どうやらベロンベロンになった夫が帰宅したみたいです。

頭が痛くなるのを感じながら、わたしは玄関に行きました。
そこにはすでにぐったりとしているフェイトちゃんの姿が。

「おかえり、フェイトちゃん。ほら、玄関で寝てると風邪引くよ」
「ありあとぉ~、なのはぁ~。本当に愛してるよぉ~」
そう言って何度も頬にキスをしてくるフェイトちゃん。
すごく嬉しいのですが、お酒臭いのはどうにかして欲しいと感じてしまいます。贅沢なのでしょうか。

それはともかく、何とかしてフェイトちゃんをリビングに連れていったとき、その悲劇は起こったのです。
それは、わたしがお水を汲みにいったときのことでした。
フェイトちゃんから目を離すと、次の瞬間にはフェイトちゃんがいませんでした。
慌ててその姿を探すわたしに声がかけられました。

「なのはぁ、このプリン美味しいねぇ~。どこのプリン?」
その声は冷蔵庫の方から聞こえてきました。
プリン、という単語を聞いてわたしは動揺してしまいました。
そのプリンとは、娘が苦労して手に入れてきた限定品のプリンに違いなかったからです。

わたしが止める間もなく、フェイトちゃんはそのプリンを完食してしまうと、その場に倒れこみました。
急いで駆け寄ると、そこには幸せそうに寝息を立てて眠るフェイトちゃんの姿があったのです。

「と、いうわけなの」
「その、本当にごめんね、ヴィヴィオ」
「はぁ……さすがフェイトママだね」
なのはママの話を聞いたわたしが出すことができたのはそれだけでした。

それだけですべてが解決してしまう辺り、本当に流石です。
それに当の本人も大分反省しているみたいなので、許してあげることにします。

「もういいよ、フェイトママ。でも、今度から気をつけてよね」
「はい、反省してます」

わたしに怒られただけでものすごく小さくなってしまうフェイトママ。
残念ながら、偉い執務官さんには見えません。ま、それがフェイトママのいいところなのですが。

「ねぇ、ヴィヴィオ。もう一回買いに行こう。フェイトちゃんと一緒に、ね?」
やっぱりなのはママもフェイトママには甘い様子。
確かに魅力的な選択肢だけど、今日のところは遠慮しておこうかな。
コロナとの約束もあるし、なにより、ね?

「ごめんね。わたし、コロナと約束があるんだ。だからふたりで行ってきてよ。
でも、ちゃんと買ってきてくれないとダメなんだからね」
「心得ました、お姫様。フェイトちゃんもいいでしょ?」
「了解。ヴィヴィオ、絶対に買ってくるからね」
「うんっ、お願いね……って、もうこんな時間!?早く行かないと!じゃあ、いってきまぁ~す」
話もそこそこに、わたしは家を飛び出したのでした。行き先は勿論、大好きな図書館です。

せっかくふたりともお休みなんだから、こんなときくらい二人きりにしてあげないとね。