高町ヴィヴィオの夏休み―夏休み最後の日―

8月?★日

夏休み最後の日は切なくも、何か新しいことを知る日だと聞いたことがあります。

これはそんな夏休み最後の日のこと。
今日は定休日ということで、お休み中のなのはママと一緒に朝食を食べていた時でした。

「ヴィヴィオ、明日から学校だけど準備は大丈夫?」
なのはママが突然尋ねてきました。
その言葉を聞いて、明日必要なものを思い浮かべます。
宿題はもう終わってるし、必要なものは買ってあるし、うん、問題ないみたいです。

「大丈夫。宿題もちゃんと鞄に入れたし、後は今日の分の日記を書いておしまい」
「なら安心だね。それで、今日で夏休みも終わりだけど、どうだった?」
夏休み最後の日恒例の質問。

楽しかった夏休みの思い出が頭に浮かんできます。プリン事件や、恭也さんたちとの鬼ごっこ。
楽しいことが多すぎて思い出すのが大変なくらいです。

「すっごく楽しかったよ! どれが一番かなんて、決められないくらい」
「ならよかった。わたしは夏休みをあんまりみんなで過ごせたり出来なかったから、少し羨ましいけどね」
そう言って小さく微笑むなのはママ。

なのはママの夏休みは、基本的に管理局のお仕事をしていたって聞いたことがあります。
自分で決めたことだから、って言っていましたけど、そのことを話すときはやっぱり少し寂しそう。
フェイトママやはやてちゃんはともかくとして、
アリサさんやすずかさんとは地球でしか会えないわけですから仕方ないことかもしれませんね。

「なのはママ、寂しいの?」
「えっ?違う、ううん、違わないかな。アリサちゃんたちとあんまり遊べなかったもんね。
でも、それもわたしが選んだ道だからね」
時々、なのはママはこうして自分に言い聞かせたりしています。

でも、それは本心じゃないはず。
だって本心なら、そんなに悲しそうな顔をして言ったりしないもん。よし、それなら、

「ねぇ、なのはママ」
「どうしたのヴィヴィオ? 何か買うものを思い出した?」
わたしの発言に、なのはママは少しキョトンとした様子で応えます。

なのはママのこういった仕草は、正直なところかなり可愛らしく見えます。
フェイトママがご執心な理由も解ろうというものです。
とはいえ、今はそんなことを考えている状況ではありません。

「今日は一緒に夏休みしようよ」
「夏休みをする?」
相変わらずわたしの言葉の意味が解らないといった様子で、なのはママが首をかしげました。

思い返してみれば確かに自分でも言っている意味が解りませんが、
必至だったわたしはそのことに気づけませんでした。

「だから、なのはママがやりたかった夏休みをやろうよ。
フェイトママたちみたいにはいかないかもしれないけど、ね?」
「ヴィヴィオ……。ありがとうね」
こうして、わたしの夏休み最後の日の予定が決まったのでした。

朝食が終わったわたしたちは、そのまま街へ繰り出しました。
なんでも、子供の頃にはあまり出来なかったことをしたいみたいです。
なのはママが出来なかったことってなんだろう?

「って、カラオケ?」
わたしの呟きに大きく首を縦に振って答えるなのはママ。
少し意外な場所でわたしも若干拍子抜けです。

「カラオケなんかでいいの、なのはママ?」
「いいのっ」
怒ったような口調でありながら、顔はものすごい笑顔のなのはママ。
その笑顔から、本当にカラオケに行きたかったことが解ります。

でもどうしてでしょうか?
そのことを訊こうとしたとき、曲のイントロが流れてきました。
理由を尋ねるのは後になってしまいそうです。
「一番、高町なのは、歌いまぁ~す」

相変わらずの上手さで曲を歌いきったなのはママに、さっき考えたことを訊き……ませんでした。
だって、本当に楽しそうなんだもん。そんな野暮なことはできません。わたしに出来るのは、

「じゃあ、二番、高町ヴィヴィオ。全力全開で歌います」
なのはママと一緒に楽しく歌うだけのようです。

「あぁ~、楽しかったねぇ、ヴィヴィオ?」
2時間の間、わたしたちは全力を出して歌っていました。
そうはいっても、わたしはどちらかというとオマケ。
殆どの時間、マイクを握っていたのはなのはママでした。それだけ楽しんでもらえたということでしょう。

「うん、楽しかったよ。次はどこに行く?」
「そうだなぁ、そろそろお昼にしようか」
そう提案されましたが、今日の主賓はなのはママ。

主賓の言葉に逆らうわけにもいかず、実際にお腹が空いていたわたしは、一も二もなく頷きます。
こんなふうに、なのはママとの夏休みが過ぎていったのでした。

楽しかった時間はあっという間。
最後の場所ということで、海の見える公園にやって来ました。地球の海鳴公園みたいなところです。

そこの柵にふたりで寄りかかって海を眺めていました。
「今日はありがとうね、ヴィヴィオ」
最初は、海の方へとなのはママがひとり言を呟いただけのように聞こえたのですが、
その声はしっかりとわたしに届いていました。

「どういたしまして、ママ」
「あれ、聞こえてた?」
悪戯がバレたみたいに舌を出して照れ笑いを浮かべるなのはママ。
自分のママなのに、なんだかドキッとしてしまいそうなくらい魅力的な笑顔です。

「わたしね、」
またなのはママが呟きました。でも今度の呟きは、ひとり言じゃなくて、わたしに聞かせるためのもの。
なら、何も言わずにその言葉を聞かなければなりません。

「わたしさ、やっぱりこういう普通の夏休みを過ごしたかったんだよね。
別に管理局の仕事が嫌だったとか、そういうわけじゃないよ。
ただね、こんな風に過ごすことも出来たのかって思ったら、ね」

それは後悔とは少し違う、別の何かでした。
なんと言っていいか、うまく言葉に出来ないのですが、今のわたしにかけられる言葉はありませんでした。
代わりに出来るのは、こんなことくらい。

そう思った私の手は、なのはママの頭を撫でていました。
「ヴィヴィオ……。ありがとうね」
「どういたしまして、なのはママ」

夏休み最後の日。切なくも、何か新しいことを知る日。
わたしは、今日その意味を初めて知ることができました。

「ふたりとも、どこに行ってたの? 本当に心配したんだからねっ!
それに、私だってなのはと一緒に夏休みしたかったよ!!」
少し遅めの帰宅に、フェイトママがかなりご立腹だったのは内緒です。

でもフェイトママ、少し大人気ないよ。