お月見パーティー、満月の魅力?

「ねぇ、フェイトちゃん。お月見しようよ!」
そう言われたのは、高町家リビング。

おつきみ、オツキミ……。いくら頭の中で検索をかけてみても、該当する単語は私の中にはないみたい。
となればできることはひとつ。そのまま聞き返すことだ。

「おつきみ?」
「なんだ、フェイト。お月見を知らないのか?」

私の言葉に答えたのはなのはではなく、恭也さん。
なんだか嫌な予感がするけど、とりあえず恭也さんのお話を聞いてみることにする。

「お月見というのはだな、中秋の名月という満月を眺めて月見料理を食べ、月を愛でる風習のことだ。
もともとは中国の風習だが、今では日本でも普通に行われている、立派な行事のひとつなんだ」
すごく本当っぽいけど、どうなんだろう。

恭也さんはいつも私をからかってくるから、こういう時でも気が抜けない。
信じるべきか信じないべきかで悩んでいると、美由希さんがボソリと呟いた。

「うわぁ~、恭ちゃんがまともなこと言って、はぅ!」
細い何かが美由希さんの額にクリーンヒットしたように見えたけど、うん、何も見てない。
というか、美由希さんの反応を見る限り、今回のは本当そうだ。
だからこそ恭也さんの言葉は困る。時々こうして、本当のことを混ぜてくるから。

「ま、まぁ、お月見に関してはお兄ちゃんの言ったとおりなんだけど、どうかな?」
キラキラと瞳を輝かせながらなのはが尋ねてくる。ずるいよ、なのは。
きっと君は無意識なんだろうけど、そんな瞳で見つめられたら断れるはずがないよ。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「やった!フェイトちゃん大好き!」
私の答えがよっぽど嬉しかったのか、思い切り抱きついてくるなのは。
す、すごく嬉しいんだけど、どうしたらいいんだろう。だ、だってその、なのはが、なのはが。

「なのは、その辺にしておいてやれ。フェイトが大変そうだ」
「えっ? フェ、フェイトちゃん!?」
助かったような、残念なような、そんな微妙な気分になったけど、多分恭也さんの判断は正しかったと思う。
あのままだったら私の意識は完全にどこかへ飛び去っていただろうから。でもやっぱり、少し残念、かな?

「ごめんね、フェイトちゃん。大丈夫だった? わたし、嬉しくて……。本当にごめんね」
何も言わないでいる私に悪いと思ったのだろうか、なのはが思い切り頭を下げてくる。
そんななのはを見て慌てたのは私の方。

「ち、違うよ。なのはは悪くないよ。それに、その、嬉しいのは私も一緒だから」
「本当?」
目に少し涙を浮かべつつ、上目遣いでこちらを見てくる。

その姿に私がノックアウトされないはずもない。
恭也さんの前だということも忘れて思い切りなのはを抱きしめてしまった。仕方が無いよ。
だって、なのはが可愛すぎるんだから。

「ふふ、これでおあいこだね」
力強く抱きしめているにも関わらず、なのはは微笑んだ。それがまたなのはの可愛さを強調する。
そんなことすると、本当に食べちゃうよ、なのは。
思わずなのはの唇を奪おうとした瞬間、目の前を電撃が走った。

「なの、痛っ!」
「フェ、フェイトちゃ、にゃ!」
天罰の正体は恭也さん。いつも通りの表情だけど、どこか違う何かを感じる。
これは多分、怒ってる、んだよね?

「さて、ふたりとも。晶たちが月見パーティーの準備をするまではまだ時間がある。そこでだ、」
一度言葉を切る恭也さん。少しキツい言い方に思わず直立不動になってしまう私たち。
そんな姿を見てから恭也さんは言葉を続けた。

「まだ元気があるようだし、訓練といこう。勿論、魔法ありで構わん」
魔法ありで構わない。それは恭也さんが手を抜かない、という意思表示の別の言い方。
いつもなら全力で拒否するところだけど、今日は事情が事情だ。私たちに拒否権があるわけもない。
恭也さんのありがたい申し出に、私たちは頷くしか出来なかった。

1時間後。料理の準備が出来たというレンさんの連絡で、私たちの訓練は終了した。
今日ほどレンさんに感謝したことはない。
もう少し連絡が遅かったら、私たちは立ち上がれないくらい疲れていたはずだ。恭也さん、強すぎだよ。

「ふたりとも、お疲れ様。お団子が用意してあるから、縁側へどうぞ」
いつの間にかこっちに戻っていたらしい桃子さんに勧められ、私たちはそのまま縁側へ迎え入れられた。
縁側には、たくさんのお団子に里芋や栗が並んでいて、その隣には……何かな、あれ?

「ねぇなのは、あれって何?」
「あれって……、あぁあれは薄。お月見の時にはああやってお団子とかの隣に置くんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
なのはの講釈を聞きつつ、縁側へ腰掛ける。

見上げれば真ん丸のお月様。はっきりと光っているその顔はどこか楽しそうにすら見えてくる。
これが、満月なんだ。今日まで意識して見たことなんてなかったけど、
「本当に、綺麗」
思わず口に出してしまう。

ずっと見続けていたら吸い込まれるんじゃないか、そう錯覚させるような何かがあるのかもしれない。
それほどまでに満月というものは魅力的なものだ。

「満月って、フェイトちゃんみたいだよね」
「えっ?」
驚いて隣を見る。そこには、満月にも負けない程の魅力的な笑みを浮かべるなのはが。

いや、私を魅了するという点においては、満月よりもずっと上かもしれない。
だって満月と違って、なのはの笑顔はいつもそこにあるから。
なのはの笑顔はいつまで見ても飽きないよ。

「だって、同じ金色の光で、その、わたしを、いつまでも惹きつけて離さないから」
真っ赤になりながら呟いたなのはの言葉は、しっかりと私に届いていた。
私も同じだと言わんばかりに、思い切りなのはを抱きしめる。
いきなりのことで何もできなかったのか、されるがままになるなのは。

そんななのはを見ながら、私はとあることを閃いた。
「なのは、行こう?」
「行こうって、ちょ、ちょっと、フェイトちゃん!?」
抱きしめていた手でそのままなのはの手を握ると、その手を引っ張って庭の中央へ。

なのはも段々と私の意図が解ってきたようで、胸元から紅く輝く宝石を取り出した。
それをしっかりと見てから、パーティーの準備をしていた恭也さんに声をかける。

「恭也さん、ちょっと行ってきます!」
「構わんがパーティーが始まるまでには帰ってこいよ。忍たちが来るまで30分位だからな」
その言葉に大きく頷くと、私たちは満月が輝く空へと翔び立った。

近くで見ると、月の魅力は更に増す。
地上で見ているよりも全然大きく見えるのだから、仕方ないかもしれない。
「綺麗だね、フェイトちゃん」
「うん。でも、」
その言葉に頷きながら、私は彼女の方を見る。
月の光に照らされたなのはの表情は、いつにも増して魅力的に映った。

「なのはの方がずっと魅力的だよ」
「やだ、もう、フェイトちゃんったら」
顔を真赤にして私に抱きついてくるなのは。

なんだか今日はお互いに抱きついてばかりだ。きっと月の魔力が私たちを狂わせているからだ。
だからこんなに積極的になってしまうんだ。そうに違いない。

「でも、そんなことを言ったら、フェイトちゃんだって十分魅力的なんだから」

ぎゅっと、抱きしめてくる手に力を込めるなのは。
月に狂わされた、そんな積極的な彼女を、私も思い切り抱きしめる。

もう少し、このままでいよう。もう少しだけなら、月に狂わされているのも悪くない。
そうして私たちは唇を重ねた。
月に狂わされた者同士の口づけは、いつもより少しだけ、煽情的だった。

その後、地上に降りた私たちを待っていたのは、パーティーを待ち望んでいたゲストの方々のお怒りと、
恭也さんとの激しい訓練だった。

月に狂わされ過ぎると、ひどい目に遭うということを学んだ、そんな初めてのお月見でした。