Winter Sky ~寒空の下で~

日本の冬は寒い。
こっちで生活するようになってから毎年のように感じるけど、
それでもミッドチルダと比べるとそこまで寒くはない。
少しの間、向こうで生活していた私にとって冬は夏ほど苦手ではないのだ。

勿論それは私の話であって、そうでもない人もいることもまた事実だ。
私の隣で丸まっている可愛い彼女もそのひとりである。

「うぅ~、寒いよぉ~。なんでこんなに寒いのぉ?」
両手で自分を抱き抱えるようにして歩くなのは。
絶賛侵攻中の寒波に対する文句が、先程からそれこそ滝のように溢れ出している。
とはいえこれは冬の風物詩のようなもの。毎年この時期になると、なのははこうなってしまうのだ。

「なのは、それじゃあ管理局教導隊の名前が泣くよ?」
「今は教導隊じゃなくて、ただの中学生だもん」
私の意地悪に、涙目になりながら反論してくる。
教導隊にいるときはあんなに凛々しいのに、今は普通の女の子。
そのギャップがたまらなく可愛い。

「お兄ちゃんもそうだけど、フェイトちゃんがおかしいんだよ。
こんなに寒いのに、そんな風に背筋を伸ばして歩けるなんて正気じゃないよ」
なんだか酷い言われようだ。

さりげなく恭也さんと同列に扱われているのが心に染みる。
いくら私でも恭也さんほど人間を捨てている自覚はない。
今日だってなのはを迎えに行ったとき、コートも羽織らず盆栽の手入れをしていたくらいだから。

尤も恭也さんに言わせれば、
『いや、これくらいは普通だぞ。
昔父さんと武者修行したときは着るものすらなくて、半袖で雪山を歩いたくらいだ』
とのこと。

いつも嘘ばかり言う恭也さんだけど、このときは遠い目をしていたから本当のことなんだろうな。
どこで修行をしてたんだろう。聞きたくはないけど。

「フェイトちゃん? どうかしたの?」
つい恭也さんのことで頭がいっぱいになっていたらしく、なのはの言葉に気づくのが遅れてしまう。
まさか恭也さんのことを考えていたとは言えないだろう。

「ううん、なんでもないよ。それでなんだっけ?」
「あぁ~、やっぱり聞いてくれてない。
もう、なんでフェイトちゃんはこんなに寒いのに平然としてられるかってこと」
頬を膨らませて怒っていることをアピールするなのは。
残念ながらまったく怒っていないように見えるのは仕方ないことか。
でもなのはの機嫌が悪いままだと、後々に問題が発生しそうなのでこの辺りでからかうのは止めておこう。

「ごめんね。でも私がこうしていられるのはなのはのお陰なんだよ」
「わたしの?」
今度は小首を傾げるポーズ。どうやら私が言いたいことが本当に解っていないらしい。
やっぱりなのははなのはだ。

「だって、なのはの前じゃかっこ良くいたいから」
「えっ?」
驚きに目を開いた後、ようやく言葉の意味が理解できたのか顔を真赤にして俯くなのは。
そんな反応を見せられると、こちらまで恥ずかしくなってくる。
というか今気づいたけど、私ってかなり恥ずかしい発言をした気がする。

「ちょっと、カッコつけすぎちゃった、かな?」
さっきまでの勢いが削がれた格好になった私が呟くように言うと、なのはがすごい勢いで首を左右に振る。
その勢いはまさに首が取れてしまいそうな感じで、見ているこちらが心配してしまいそうになるくらいだ。

「そんなことないよ。フェイトちゃん、すごくかっこ良かった。その、ほ、ほほ、惚れ直しちゃうくらいっ!」
今度はこちらの顔が真っ赤になる番だった。今日は私が主導権を握れると思った瞬間にこれだ。
こういうことを無意識でやるんだから、なのははずるい。

ふたりとも顔を真赤にしたまま、微妙な沈黙が流れる。
どちらも動けずにいる中で、先に言葉を発したのは私だった。
「そっ、そういえばなのは、手とか寒くない?」
「うっ、うん。少し、寒いかな。あはは」
努めて関係のない会話を選ぼうとしたのにこの調子だ。

これじゃあ、いやでもさっきのことを思い出してしまう。
その証拠になのはの声は微妙に上ずっている。それを聞いて更に慌てた私は、凄まじいことを言い出した。
「じゃ、じゃあ、私のポケット、使う?」
「っ!?」
なのはの顔が先程の比ではないほど朱に染まる。

一方で、私の方も心臓が激しく鼓動していた。
こちらはなのはへの恥ずかしさだけでなく、自分への後悔も多分に含まれていただろうけど。

「ごっ、ごめんね。いきなり変なこと言い出して。いっ、今のは忘れ、っ!?」
言葉が止まる。ポケットの中に、私のものではない手が侵入してきたのだ。
少し照れたような、それでいてどこかほっとしたような笑みを浮かべるなのは。

だがそれでなのはの攻撃は止まらない。
今の状況ですら動揺している私に、言葉による追い打ちを仕掛けてきたのだ。

「フェイトちゃんの中、あったかいね」
うん、解ってる。なのはに他意はないのだ。深読みしすぎた私がいけないだけ。
でも、そんなことを言われて平静を保つことが出来ようか。少なくとも私には無理だ。
こうなったら行けるところまで行ってしまえ。

「じゃ、じゃあ、もう少し暖かくしてあげるね」
人間とは不思議なもので、覚悟を決めた途端に冷静さを取り戻すことができるようだ。
私も例外ではないようで、先程までの動揺をごく自然に抑えることが出来た。

「えっ? そ、それって、」
その言語が終わり切る前に、私はなのはの身体を強く抱きしめていた。
私の熱を伝えるように、強く強く抱きしめていた。
最初は戸惑っていたなのはも、すぐにわたしを抱きしめてくれた。
自分の体温を私に返そうとするかのように、優しく抱きしめてくれた。

「なのは、まだ寒い?」
「うん、まだ寒いよ」
何かを期待しているような視線を私にぶつけてくる。
ならばと、私もなのはの顎に手を滑らせると少しだけ力を入れた上を向かせた。

「フェイトちゃん、ここ、外、だよ?」
「大丈夫、誰も見てないよ」
恥ずかしそうな表情を浮かべたままのなのはにそう言い聞かせると、私は自分の唇を彼女の唇に触れさせた。

翌日、私たちはふたりそろって風邪を引いた。寒空の中、ずっと立っていたのだから当然だ。
だが私たちを慌てさせたのはそのことではなく、はやてから届いた1通のメールだった。

お見舞いに来るという連絡と、1つの添付ファイル。

何かと思ってファイルを開くと、そこには昨日の写真が貼りつけられていた。
慌てた私がなのはに電話してみると、なのはにも同じメールが届いていたようで、こちらもかなり慌てている。

『どうしよう?』
「とりあえず、言い訳を考えないとね」

風邪による発熱に加え頭痛を感じながら、
私たちはお見舞いに来るであろう3人への言い訳を考え始めたのだった。