ゲームセンターにて

今日は久しぶりになのはとデート。学校が半日で終わったこともあり、いつも以上に気が入る。
当分の間、ふたり揃ってのお休みが取れないのだ。楽しまなくちゃ損だよね。

お昼ご飯を食べた私たちが向かったのはゲームセンター。
店先に出ていたクレーンゲームの景品になのはが一目惚れしてしまったからだ。
そうしてから30分くらいなのはがプレイしているんだけど……

「にゃぁ~! どうして取れないの!?」
こんな具合。

すでに2000円以上投資しているけど、なのはが求める景品は一向に獲得出来ていない。
その代わりと言わんばかりに他の景品を獲ってしまうあたりは流石だと思う。

でも、そろそろ周囲の視線が痛くなってきた。だってなのは可愛いもん。
みんななのはに見とれちゃってるよ。でも本人はどこ吹く風。ゲームに打ち込む姿は真剣そのもの。
そこがまた可愛いんだけどね。そんな恋人の様子を見ていると不意になのはが振り返った。

「フェイトちゃん!」
「はっはい!」
思わず直立して答えてしまう。管理局に勤め始めて以来、染み付いてしまった悲しい癖だ。

「これ、両替してきて」
「えっ?」
「早く!」
「りょっ、了解いたしました!」
いきなり命令された私はなのはに渡された千円札を持って両替機に向かう。

教導官より執務官の方が地位が高いはずなんだけど、何だかおかしな感じ。
まぁ、私がなのはの命令に逆らえるはずがないんだけど。

「なのは、両替してきたけど……
「ありがとう。フェイトちゃん、大好き」

こっ、こんな人前で恥ずかしいよ。なのはの役に立てるなら……って違うよ、私。
なのはに注意しないと。
確かに私たちはお給料をもらってるけど、だからといってこんなふうに使うのは間違っていると思う。

「なのはそろそろ止めた方が、」
「フェイトちゃん、これは真剣勝負なの。話し掛けないで!」
「はい……
轟沈。

どうやらなのはのゲーマー魂が完全に燃えてしまっているみたい。
アリサたちと遊ぶときにも時々こうなっちゃうことがある。

こうなったなのはは誰の言うことも聞いてはくれない。
今の私に出来るのは人垣となりつつあるギャラリーの視線から、できる限りなのはの身体を守ることくらいだ。

しばらくするとさっき私が両替してきたお金も使い切ってしまったのか、なのはがこっちを向く。

「ごめん、フェイトちゃん。百円だけ貸して。これでダメだったら諦める」
「いいけど……

なのはの言葉を信じて、私は財布から百円を取り出してなのはの手の平に乗せてあげる。
そうするとなのはは極上の笑みを浮かべて、

「フェイトちゃんの気持ちが詰まったこの百円で絶対に取ってみせるからね」
と力強く言ってくれた。

なのはさん可愛すぎです。思わずくらくらしてしまいそう。
そんなことを考えていた私のことは視界に入らなかったようで、
なのははさっさと投入口に百円を入れてクレーンを動かしていた。

「よしっ、そこっ。……やったぁー! やったよ、フェイトちゃん!!」
通算何度目の挑戦かは解らないけど、ついになのははお目当ての景品を手に入れたみたい。
よかったぁ。なんだかこっちまでホッとしちゃったよ。

「でもなのは、そこまでしてどんな景品が欲しかったの?」
「うふふ、それはね。……じゃ~ん」
なのはがそういって見せてくれたのは女の子のキャラクターが付いたストラップ。
栗色のツインテールに白い服、
それから魔法の杖を持ったそのキャラクターは目の前の少女の戦装束とうりふたつ。
その顔までどこか似ているようにすら見える。

「その娘、なんかなのはに似てるね」
「あっ、やっぱりそう見えた?だから、はい」
そう言ってなのはは私の手にストラップを握らせる。

突然の出来事に理解できない私。
だってなのははこれが欲しかったからあんなに頑張ってたんじゃ……

「いいの?だってなのはあんなに、」
「いいの。でもその代わり、これを鞄とか携帯電話に付けておいて。
そうすればいつでもわたしと一緒にいられるでしょ?」
「なのは……ありがとう!」
思わず抱きついてしまう。

あまりの嬉しさに舞い上がっていた私は、そこが公衆の面前であることなんてすっかり忘れてしまっていた。
少ししてから慌ててなのはから離れたけど、自分の顔がすごく熱い。
なのはが景品を取ったからほとんど人はいなくなっていたけど、それでも恥ずかしいことには違いない。
その恥ずかしさを鎮めるために、気になっていたことを尋ねる。

「私にはなのはがいても、なのはには私はいないの?」
「大丈夫だよ……ほら、この娘。フェイトちゃんにそっくりでしょ?」
そう言ってなのはが差し出したストラップは、確かに私に似ているキャラクターが付いていた。

私のバリアジャケットに似た服を着ていて、ザンバーみたいな大きな剣を持っている。
なんかこれはこれですごく恥ずかしい。
恥ずかしさを紛らすための質問だったのに逆にもっと恥ずかしくなっちゃったよ。

「これでお揃いだね?」
ストラップを見ながら屈託のない笑顔で尋ねてくるなのはに、
私は無言で首を縦に振ることしかできないでいた。

結局、私はなのはからもらったストラップを携帯電話に付けた。
鞄でもよかったけど、携帯電話のほうが持っている時間が長いから。
なのはが前に集中していることを確認すると、私はストラップに向かって小さく呟いた。

「これからもよろしくね、なのは」
「えっ?なぁに?」

残念、聞こえていたみたい。でも教えてあげないよ。この言葉は私とこの娘だけの秘密。
いくらなのはでも簡単には教えられない。

「なんでもないよ。それより早く行こうよ。まだまだ楽しまないとね」
「あっ、待ってよぉ~。フェイトちゃ~ん」

後ろで私を呼ぶ声。いつもなら立ち止まるところだけど、今日は止まらない。
少し意地悪がしたくなっちゃったからだ。私を放ってゲームに熱中していた娘へ、ささやかな仕返し。
これから思い切り楽しまなくちゃ。

 

私たちのデートはまだ終わらない。

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