探偵フェイトの事件ファイル―なのはさんの浮気疑惑?・事件編

おかしいと思ったのは、最近になってからだった。

なのはの帰りが遅い、らしい。伝聞なのは私もヴィヴィオから聞いたことだから。
いくら遅いと言っても私並みに遅くなるわけではないようで、1時間程度のことらしい。
なのはだって仕事が長引くことくらいあるだろうから、私も最初は疑問には思わなかった。

でも流石にそれが何日も続くと、いくら私だっておかしいと思う。
そしてそれを決定づけたのは、昨日の出来事だった。

翌日は珍しく3人揃って休み。だから3人でどこかへ買い物に行こうと、前から楽しみにしていた。
そんな楽しみな日を明日に控え、私は何とか仕事を終わらせて帰宅した。
リビングへ入ると同時に、いつの間にか解れてしまったタイを外す。
新しいものを買おうにも、そんな暇すらなかったのだ。

最初の問題が起こったのは夕食後だった。
何かを考えているかのように無言だったなのはが、口を開いたことから始まった。

「あのね、フェイトちゃん、ヴィヴィオ」
明らかに済まなそうな表情を浮かべるなのは。
残念ながら、その表情を見ただけで彼女が何を言おうとしているのか解ってしまう。

「明日なんだけど、その、急な用事が……
「そん、」
思わず出かかった言葉を飲み込む。
よくよく考えてみれば、このパターンは私の時と同じだということに気づいたからだ。

自分が言われる機会があまり無かったから解らなかったけど、この言葉は結構精神的に来るものがある。
よし、今度から気をつけよう。できるだけ。
まぁ、それは置いておくとして残念なことには代わりない。特にヴィヴィオはそうだろう。

「本当に、ごめんなさい」
深々と頭を下げるなのはに、私たちは何も言えない。
ヴィヴィオも悲しそうな表情を浮かべるものの、決して寂しさを口に出したりはしない。

「急用なら仕方ないよ。大丈夫だよ、明日はフェイトママと一緒お買い物に行くから。ね、フェイトママ?」
「う、うん、そうだね。だからなのは、あんまり気にしないでね」
まさかヴィヴィオがそんなことを言うなんて思っていなかった。
本当なら私がかけなければならない言葉なのに、本当に情けない。

「ふたりとも、ありがとう。この埋め合わせは絶対にするからね」
「うんっ!」
「楽しみにしてるよ」
これでその場は収まった。

問題は、この後だ。ヴィヴィオが寝て、私がなのはの部屋に入ろうとしたときのこと。
ノックをしようとした私の耳に、信じがたい言葉が飛び込んできたのだ。

……うん、明日のことは大丈夫。ふたりともちゃんと納得してくれたし」
楽しそうな談笑。それに、明日のことって? てっきり仕事だと思ってたけど、どうやら違ったようだ。
思い返してみればなのはは急用としか言っておらず、仕事なんて言っていない。
じゃあ、一体どうして? 悪いとは思いつつ、私は暫くドアの前で聞き耳を立てることにした。

「それより、そっちこそ大丈夫? いきなり仕事とか言われても困っちゃうからね」
本当に楽しそうに話すなのは。なのはのこの話し方は、かなり親しい人間に対してのものだ。
だけどこれだけじゃ誰か特定することが出来ない。もう少し聞かないと。

「じゃあ、明日遅れないでよ。うん、解ってる。フェイトちゃんには内緒だよ。それじゃ、また明日。
10時に森林公園で」
どうやら話は終わったようだ。

だけど、私の頭の中はそれどころではなかった。
私に内緒、ってどういうこと?私に言えないことなの?

その時、私の脳裏でとある単語が閃いた。最近帰りが遅い、そして私に秘密で会う。
そこから連想される言葉なんて、ひとつしか考えられない。浮気。

急に息苦しくなって、立っているのが辛くなってくる。まさかなのはに限ってそんな。
とにかく考える時間が欲しい。私はなのはの部屋の前で踵を返すとまっしぐらに自室へ向かったのだった。

翌早朝、私はストライク・アーツの練習をするヴィヴィオとランニングへ出かけた。
頭を冷やしたかったのもあるし、情けない話だけど、誰かに聞いてもらいたかったのだ。
ランニングを終えストレッチに入るヴィヴィオに、私は意を決して話しかけた。

「ねぇ、ヴィヴィオ。聞いてもらいたいことがあるんだけど」
「何、フェイトママ?」
ヴィヴィオに促される形で、私は昨日聞いたことを話した。
改めて考えてみると、どう考えても娘に話すべき内容ではない。
でも話し始めてしまったのだから仕方がない。気付けば私は、ヴィヴィオに全てを話していた。

「う~ん、多分フェイトママの勘違いだと思うよ」
話しを聞き終えたヴィヴィオの第一声がこれだった。
真剣に悩んでいる私とは対照的に、ヴィヴィオは明るい表情を見せている。

「ど、どうしてそんなことが言えるの?」
「だって、なのはママに限って浮気なんて絶対ないよ。なのはママ、フェイトママのこと大好きだもん」
思わず顔が熱くなってくる。子供は親のことをよく見ているって聞くけど、本当みたいだ。
でも、ヴィヴィオに聞いたのは正解だったみたい。
娘にそう断言してもらって、なんとなく心が落ち着いた気がする。
だけどそうなると、なのはが会う相手がすごく気になってくる。

「フェイトママさぁ、そんなに気になるなら、」
そこで言葉を区切ると、ヴィヴィオは満面の笑みを浮かべた。
どこかで見たことのある笑顔。だけどどこで見たのか思い出せずにいると、ヴィヴィオが言葉を続ける。

「尾行しちゃえばいいんだよ」
その言葉と顔を見て、ようやくどこで見たのか思い出した。はやてだ。
似ないでいいところが似るんだから。と、今はそれどころじゃなかった。

「尾行、かぁ」
確かにそれが一番確実な方法だろう。なのはの行動を観察すれば、誰と会うかなんて一目瞭然だ。
だけどそのために秘密を知ってしまうのは、なのはに悪い。
天使と悪魔が囁きかける中、次のヴィヴィオの言葉が決め手となった。

「もしかしたら、なのはママ、誰かに盗られちゃうかもよぉ」
「うん、やる」
我ながらものすごく虚しいことだけど、ヴィヴィオの挑発にまんまとのせられてしまった。

「よぉし、じゃあ今日は探偵さんだね、わたしたち」
こうして、娘との奇妙な休日の幕が上がったのだった。