たまにはこんなお花見も?

今日は楽しいお花見。しかも家族3人だけという素晴らしい条件だ。
目の前には桜の花と、愛しい妻が丹誠込めて作ってくれた手料理。
これで気分が高揚してこないはずがない。

はずはないんだけど、私のテンションは一向に上がる気配を見せなかった。
それもそのはず、何故なら今日のお花見は、

「それじゃあ、今年のお花見 in高町家を開催しま~す」
ということだからだ。それでもヴィヴィオはなのはの宣言に、拍手をしている。
まぁ、ヴィヴィオとなのはが楽しめるなら私としては満足なんだけど。

「フェイトママ、テンションがダルダルだよ? 何かあったの?」
「う~ん、あったといえばあったし、なかったといえばなかったかな」
そう言いながら、なのはの方を軽く睨んでみる。
するとなのはも私の視線に気づいたのか、逃れるように顔を背けた。
一応自覚はあるみたいだから、いいか。

そもそも、どうして家の中でお花見をしなければならないのか? それは去年のお花見の時まで遡る。
全ては、はやてがシグナム秘蔵のお酒を持ってきたことから始まった。

なのはとはやては泥酔し、なのはが作ってくれた料理は殆どヴィヴィオとリインによって食されてしまった。
さらに酔ったふたりが些細なことで口論を始めて、さぁ大変。
何故か魔法戦に発展し、公園からこの時期の出入り禁止をくらってしまったのだ。

加えて言えば、一番処罰が重かったのは何故か私。
監督責任を問われた結果3ヶ月の減給とボーナス50%オフという悲惨なものだった。
うん、あの時はみんなの協力でなんとか耐え忍ぶことができたよ。
持つべきものは友達、本当に大感謝だ。

と、そんなことがあって私たちは家の中でお花見をしている訳。
桜の花については、地球の桜の画像を天井に投影することで代用している。
流石にどこからか持ってくるわけにもいかないから、これは仕方ないだろう。

それになのはの料理も、去年のお詫びも込められているのか、かなり豪勢なものになっている。
完全にお食事会と化しているけど、これはこれでいいのかな。

「はい、フェイトちゃん。今日はフェイトちゃんの大好物で揃えてみました」
取皿を手渡してくれるなのは。確かにそのお皿の上には、私の大好物だけが乗っていた。
でもなのはは勘違いしてる。だって、私の本当の好物は、

「私の大好物はなのはが作ってくれたもの、全部だよ」
「やだ、もう、フェイトちゃんったら」
笑いながら自分の取皿に料理を盛るなのは。それが照れ隠しであることは、もちろんお見通しだ。
高町なのは検定特1級保持者の私にとって、それくらい造作も無いこと。やっぱりなのはは可愛いな。

「どうヴィヴィオ、少し味が濃かったかな?」
「う~ん、少しね。でも、こっちも好きだよ」
目の前では妻と娘が仲睦まじく食事。見上げれば、映像とはいえ、満開の桜。そして手元には妻の手料理。
これ以上何かを求めるのは、贅沢というものだろう。そう思いながらなのはの手料理を味わう。
うん、やっぱり愛情は最高の調味料だ。

舌鼓を打ちながら、私が二品目に箸を伸ばそうとしたとき、不意に玄関のチャイムが鳴らされた。

「誰か来たみたい。誰だろう?」
なのはの表情に浮かぶのは疑問符。どうやら演技ではないようで、本当に誰か解らないようだ。
去年のようにはやてたちをサプライズで呼んだ、という訳ではないみたい。

「あ、私が出てくるよ」
立ち上がろうとするなのはを制し、玄関に向かう。まさか、はやてかな。

いや、それはないだろう。はやてには今日、擬似お花見をすること自体伝えていない。
これではやてだったら、本気で家中を点検しなければならない。盗聴器とか、そのあたりを。

「はい、どなたです、か?」
「はろー、フェイトちゃん」
まさかの人物が立っていた。予想していなかったのは、その隣がリインではなくヴィータだった事くらいだ。
どうしてこう、アレなんだろうね、はやては。

「いやー、ふたりとも休暇やって聞いてなぁ。あとは大体想像できるやん?」
「それでヴィータはどうして?」
「あたしははやてが美味しい物食べに行くって言うから、ついてきただけだ。正直、すまないと思ってる」
ニヤニヤとした笑いを浮かべるはやてと、神妙な面持ちのヴィータ。

見た目を考えると、本来なら逆の表情を浮かべていて然るべきだけど、はやてなら仕方ないか。
しかし、問題はそれだけではない。むしろ、私が一番聞きたいことをまだ聞いていない。

「それで、その後ろの機械は何なのかな?」
さっきからずっと気になっていた。
はやての後ろでは、ヴィータくらいの大きさの物体が鎮座していたのだから。
これを気にするなという方が無理だ。しかしはやての答えは、ある意味予想通りのものだった。

「それは後のお楽しみっちゅーことで。そんじゃまぁ、おっじゃましま~す」
「お、お邪魔します」
言いながら機械とともに家に侵入してくる親友。
ここまで堂々とされていると、もはや追い返す気力さえ湧いてこない。
はやてたちの行動にため息を吐きながら、私はその後ろについていくのだった。

「あ、はやてちゃん、いらっしゃい」
「ごめんなぁ~、いきなりお邪魔して」
リビングを開けたときの第一声がこれ。流石ははやて。処世術も天下一品だ。
ヴィータはヴィータで、ヴィヴィオと話をしている。このふたりは特に仲がいい。
多分、ヴィータからすれば妹のような感じなんだろうな。その気持ちはよく解るよ。

「ヴィータちゃん、久しぶり。元気だった?」
「おっ、生意気言うようになったじゃんか。そりゃこっちのセリフだぜ」
そんなことを話しながら、料理に手をつけるふたり。見ていてこちらまで和んでくる光景だ。

でもどうしてなんだろう。
なのはと話しているはやてには動物の耳と尻尾が生えているようにしか見えない。
タから始まってキで終わる三文字のとある動物の。

「で、はやて。いい加減それが何なのか教えて欲しいんだけど」
これ以上なのはと話しているとセクハラ行為に及びそうなので、適当に話を切り上げさせる。
若干不満そうな顔を浮かべたはやてを無視しつつ、機械に視線を向ける。
どうやら厄介ごとを増やすものじゃないみたいだけど、なんだろう?

「じゃ、ちょっと待っとってな。えっと、これをこうして、こうやったっけ?」
手元のメモ用紙を見ながら、危なっかしく機械の操作をするはやて。見てるこっちがハラハラしてきそうだ。

はやてを見守ること数分、機械がようやく動き出した。小さな起動音と共に、四方からレンズが姿を見せる。
それと同時にはやてが私に指示を出した。

「フェイトちゃん、桜の映像を止めて」
どうしてかは解らないけど、とりあえずはやての言葉に従う。
そして私が投影機の電源を落とした直後、はやての声が響く。

「よっしゃ、スイッチオン!」
次の瞬間、私たちは言葉を失った。私たちの周囲には、桜の木が何本も立っていたからだ。
この光景は見たことがある。これは確か、

「すずかの家?」
「ご名答、その通り」
小さく呟いた私の言葉に、はやてが耳聡く反応する。でも私の耳に、その言葉は残らなかった。
春を彩る桃色の花に、圧倒されてしまっていたから。

「はやてちゃん、これって?」
「これは忍さんから借りてきた、えっと……『忍ちゃん特製、桜投影機・3Dバージョン』や」
メモに書いてあるらしい名前を読み上げるはやて。なるほど、忍さんが作ったなら納得だ。
やっぱりすごいな、忍さんは。投影されている映像は、ミッドチルダの最新技術並みの画像なんだから。
となれば、次の疑問。どうしてはやてが、わざわざ忍さんからこれを借りてきたのか。

「はやて、確かにすごくありがたいんだけど、どうして家に持ってきてくれたの?」
「あぁ、それは、うん、なんちゅーか、」
珍しく口ごもるはやて。なんだろう、また何か企んでるのかな。

「ほら去年、迷惑かけたやろ? せやからそのお詫びにって思ってな」
「そうだったんだ。ありがとうはやて」
はやてもはやてなりに、あのことで悩んでいてくれたんだ。でも、はやてには本当に感謝だ。
だって家の中なのに、こんな豪勢なお花見にしてくれたんだから。

「はい、はやて。なのは特製のお料理だから、きちんと味わって食べるようにね」
「おぉ! どうしたん、フェイトちゃん? 何か悪いものでも食べたん?」
「はやてちゃん、それってどういう意味?」
いつも通りのはやての悪ふざけに、なのはが突っ込みを入れる。よし、これで元通り。
やっぱりお花見なんだから、しんみりしてちゃいけない。楽しまないと。

「あはは、冗談や冗談」
なのはに睨まれたはやてはヴィヴィオたちの方へ逃げていってしまった。
となると、必然的に私となのはのふたりきりになってしまう。

さりげなくなのはのそばに近づくと、なのはもそれに気づいたようで私の腕に寄りかかってきた。

「でも、はやてちゃんには本当に感謝だね。こんなに綺麗な桜の花を見せてくれて」
無邪気に笑うなのは。そんな無防備なところを見せられると、少し意地悪がしたくなる。
今日くらいいいよね、このセリフを言っても。だって本当のことなんだから。

「君のほうが、綺麗だよ」
「なっ!? もっ、もう、フェイトちゃんったら!」

そして私は、目の前の彼女の頬にそっと口づけをした。
桜の花よりも、ずっと桃色に染まったその頬に。