ライバル、宿命の対決

三月末、私となのはは学校の教室で対峙していた。
きっかけは些細なこと。でも、私たちにとってはすごく大きなこと。逃げることができない真剣勝負。

「フェイトちゃん、覚悟はいい?」

鋭い視線を私に投げかけてくるなのは。
いつもの私なら怖気づいているかもしれないけど、今日は違う。
目の前の脅威と真っ向勝負するって決めたんだ。私もなのはを見据えて臨戦態勢を取る。

「大丈夫、覚悟はできてるよ」

私の覚悟を見て取ったのか、なのはが一度だけ大きく頷く。そして、開戦の合図を告げた。

「勝っても負けても恨みっこなし。いくよ?」
「うん」
「せーのっ!」

その言葉と同時に、私たちは手に持った武器―通知表―を広げた。
お互いがお互いの通知表に書かれている数字を次々と流し見していく。目的はたったひとつ。

「なのはは3だって」
「フェイトちゃんは2だよ。しょうがないよね、まだこっちに来てから日が浅いもんね。でも勝ちは勝ちだよ」
「あぅ。やっぱりなのははすごいんだね」

そう、国語。
私がこっちに来てからまだ1年くらいしか経ってないけど、それでもかなり日本語は上達したと思う。
なのはも国語は苦手だから、うまくいけば勝てたかもしれないのに。

「どこがすごいのよ、ど・こ・が!」

通知表を見せ合っていた私たちにアリサが声をかけてきた。
通知表を丸めて腰に当てているところを見ると、出来は完璧なようだ。なんか、少し悔しいかも。

「まったく、なのはも国語で追いつかれそうになってどうするのよ。
フェイトがこっちに来てから1年くらいでしょ?それだけの時間でなのはの9年分に追いつこうとしてるのよ。
大丈夫なの?」
「うっ、そ、それは……

問い詰められ、言葉に詰まるなのは。そんな様子に溜息をついたアリサはなのはの腕を取る。

「ちょっとこっちに来なさい」
「えっ、何? 何なのぉ~?」

私が止める間もなく、アリサは廊下へ行ってしまった。
追いかけようとも思ったけど、さすがにそれはマズい気がして思い留まる。
突然独りになって唖然としていた私に、はやてとすずかが声をかけてきた。

「いやぁ、アリサちゃん荒とったなぁ~」

苦笑しながらはやてが私の肩に手を置いた。
確かにいつも以上に荒れていた気がするけど、一体どうしたんだろう?

「本当にどうしたんだろうね?」
「って自覚なしかい」

何故か頭を押さえたはやて。大丈夫かな、病気とかじゃないといいんだけど。

「まぁまぁ、はやてちゃん。それにしても、フェイトちゃんは国語をものすごく勉強したんだね。
私もうかうかしてられないよ」
はやてをなだめながらすずかが言う。そう言ってもらえるのはうれしいんだけど……

「まだすずかには追いつけないよ。でも、それくらいになれるまで頑張らないとね」
「うんうん、その意気だよ」

すずかが頷いた直後、なのはたちが帰ってきた。
何故かものすごく嬉しそうな顔をしてる。一体何を言われたんだろう?

「なのは、何話してたの?」
「う~ん、秘密」

教えてくれなかった。何なんだろう、すごく気になる。特になのはの笑顔の理由が。
でもなのはに聞いても無駄みたい。そのことを悟った私は、アリサに訊いてみる。

「アリサ、どんな話をしたの?」
「べっつに~。そのうち解るんじゃない?とにかく、あたしから教えることはないわよ」

こっちもダメだった。秘密にされるともっと気になってくる。どうやったら教えてくれるのかな。
そのうち解るって言ったけど、本当なのかな?

「ねぇ、なのは。教えてよ~」
「だ~め。アリサちゃんも言ってたでしょ、そのうち解るって」
「そのうちじゃなくて、今すぐ解りたいんだよぉ」

なのはに問い詰めるけど、そのたびにはぐらかされる。
でも諦められない。だってすごく気になるんだもん。

「大丈夫だよ、フェイトちゃん。フェイトちゃんのためにわたし、国語の勉強頑張るから」
「えっ?」

なのはの言葉の意味が解らない。なんで私のためになのはが国語を頑張るんだろう?
だって私と点数を競い合ってるんだよ。自分のために頑張らないと意味がないんじゃないのかな。
でも、はやてたちはそれだけで解ったみたい。一体どういうことなの?

「はは~ん、そういうことか。……アリサちゃんもなかなかの悪党やね」
「ふっふ~ん。策士と呼びなさい」
「それは違うと思うんだけどなぁ」

後ろの3人がそんなことを話している間、私はなのはの言葉の意味を考える。
でもいくら考えても答えが出ない。諦めきれない私はもう一度なのはに尋ねる。

「ねぇ、なのはってばぁ」
「もうっ、仕方がないなぁ。えぇっとね……

そう言うとなのはは、笑顔になって衝撃的な言葉をささやいた。
間違いなく私の顔は真っ赤になっていただろう。
その後、しばらくなのはの方を向けなくなるくらい恥ずかしかった。
いくらなんでもあれは反則だと思うよ。

「大好きなフェイトちゃんに国語を教えてあげられるように、ってことだよ」

それ以降、私はなのはに国語で勝てていない。負けるたびになのはが教えてくれるんだもん。
勝つなんて出来ないよぉ。