花より……?

「それじゃ、かんぱ~い」
「かんぱ~い」

なのはの声で、私たち3人はお互いのグラスを重ねた。

今日、私たちは家族で近所の公園にやって来ている。目的は当然、

「それにしても、お花綺麗だね~」
「うん。これで桜の花だったら最高なんだけどね。ね、フェイトちゃん?」
「それはそうだけど。でも、今でも十分綺麗だからこれ以上高望みするのはいけないと思うな」

そうお花見。
でも、どこの世界でも花を愛でようという気持ちは同じなようで、公園の中は人で溢れている。
そんな中で私たちは花の真下という絶好のポジションを獲得していた。

この場所を用意してくれたのはなのはなんだけど……
おかしいなぁ。なのは、仕事で忙しいって言ってたんだけど。
まぁ、あんまり気にしても仕方ないことなんだけどね。

「どうかしたの、フェイトちゃん?」
「えっ?ううん、何でもないよ」

さすがに、お花見に来てまでなのはのことを考えてました、なんて言えるはずもない。
どう言い訳したものか、と慌てて取り繕う私に思わぬところからの援護射撃。

ヴィヴィオだ。お腹を押さえているところを見るとお弁当が待ちきれないみたい。
なんだか微笑ましい。

「なのはママぁ、お弁当まだ?なんだかお腹空いちゃったよ」
「うふふ、ヴィヴィオはやっぱり花より団子なんだね」

娘に急かされてお弁当を広げるなのは。そしてそれを見る私。
うん、これでどこから見ても立派なお父さんだ。

……別に悲しくなんかないよ。ただ少しだけ、お母さんもいいなぁって思っただけで。

「はい、フェイトちゃん。お弁当だよ」
「へっ!?」
気付いたらなのはの笑顔が目の前にあった。
危ない危ない。どこか違うところへ旅立ってたみたい。

「どうしたの、フェイトちゃん。さっきから変だよ」
「べっ別に大したことじゃないんだよ。ただ、その、お花。そう、お花に見とれてたんだよ」
「そっかぁ。そうだよね。お花綺麗だもんね」

我ながら苦しい言い訳だと思ったけど、なのはは納得してくれたようだ。
そのことに感謝しつつ、なのはが作ってくれたお弁当を見つめる。

……私の好きなものばかりだ。なんだか食べるのが勿体ない。
でも、目の前には期待に満ちた表情で私を見つめるなのは。
どうしても食べなきゃいけないみたい。

「じゃあ、卵焼きからもらおうかな」
誰に言うとでもなく独りごちた後、なのはお手製の卵焼きを口に運んだ。
卵の甘みが口の中いっぱいに広がって、それだけで幸せな気持ちになれる。
うん、私好みの味付けだ。

「どう、フェイトちゃん? 上手にできたかな?」
「もちろん。なのはが作るものが美味しくないわけないよ」
「にゃはは、それはそれで恥ずかしいかも」

思い返してみれば少し恥ずかしかったかも。
でもなのはの料理が美味しいのは本当のことだから仕方ない。
こんな美味しいものを作るなのはがいけないんだ。

「お二人とも、アツアツです」
「ま、いつものことやから気にはならんけどな~」
「えっ?」

後ろからの聞き慣れた声。
その声に弾かれるように振り向くと、予想通りといえば予想通りの人物が立っていた。

「はやて、それにリインも。どうしてここにいるの?」
「どうしてって、なのはちゃんに聞いとらんの?」
「なのはに? 聞いてないよ」

はやてたちが来るなんて聞いてない。多分だけど。
「なのは、どういうことなの?」
「えぇっと、それは……。ほらゲストは秘密のほうがいいかなぁ、なんて」

言いながら舌をぺろりと出すなのは。
あぁ、もう可愛いな。そんなことされたら何も言えないじゃない。
ヴィヴィオもリインと一緒にお弁当を食べ始めてるし。

別にはやてが来るのは悪くない。でも、もう少しなのはと二人きりでいたかったよ。

「まぁ、そう気を落とさんといて。お土産も持ってきたから」
「お土産?」

そう言うとはやては、手提げ袋の中をがざごそしながら瓶を取り出す。
それってお酒だよね? しかも日本酒。

「残念なことにシグナムたちはお仕事が入っててなぁ。あの子たちからの差し入れや」
「それって、かなり高いお酒だよね?」
「みたいやね。でも本人がええって言っとるから、ええんちゃう?」
「そうだね。じゃあ、早速いただきます」

言うが早いか、早々に封を開けるなのは。同時に紙コップにそれを注ぎ込み、一口飲む。
瞬間、ものすごく満足そうな顔。桃子さん、士郎さん。なのはは間違いなくあなたたちの子供です。

「うわぁ、これすごく美味しいね。フェイトちゃんもどう?」
「飲みたいのは山々だけど、今日は私が運転手だからね。お姫様たちをお送りしないと」
「う~ん、残念。じゃ、はやてちゃんどうぞ」
「これはこれは。おおきにな」

そう言って、はやてもお酒を飲みだした。
本当にすごく美味しそうだけど我慢しないと。

そうだ、なのはのお弁当食べて、気分を紛らわせよう。
「ヴィヴィオ、私にも、お、べん、とう?」
「リインちゃんよく食べるねぇ」
「この体は燃費が悪いですからね。これくらい食べないといけないのです」
愛妻弁当は食べ盛りのふたりに食べられて、ほとんど残っていなかった。

かろうじて残っているのはヴィヴィオが握ったと思われるおにぎりと、おかずが少々。
私の好物はほとんどない。

「あっ、フェイトママ。はい、これヴィヴィオが握ったんだよ」
……うん、ありがとう」
少しいびつな形のおにぎりを差し出されては、受け取らないわけにもいかない。

なのはの手料理をあんまり食べられないのは残念だけど、娘が作ったおにぎりが美味しくないはずがない。
そう思ってそのおにぎりを口の中に入れると、次の瞬間、私は涙目になっていた。

「どう、美味しい? 少しだけお塩が多くなっちゃったんだけど」
「だい、じょうぶ、だよ。フェ、フェイトママは、これくらいのほうが、好きなんだ」
母娘でよく似ている目をされては、しょっぱいなんて言えるわけがない。
精いっぱい頑張ってヴィヴィオに心配をかけないようにする。

「そうなんだ。じゃあ、まだまだあるから沢山召し上がれ」
……ありがとう、ヴィヴィオ。フェイトママ嬉しくて涙が出てきちゃったよ」
衝撃の発言に体が凍り付きかけたけど、ここまで来たら仕方ない。それに愛する娘のおにぎりだ。
食べられないなんてことはない、と思う。

「まさに、母は強し、ですね」
リインのそんな声が聞こえた気がするけど、よく覚えてない。

それから先はあんまり思い出したくない。
一つだけ言えるのは、私たちがあの公園を出入り禁止になったってことだけ。
その中で一番怒られたのは何故か私だった。
何もしてないはずなのに、監督責任を問われて3カ月の減俸とボーナス50%オフというありがたい処罰。

 

もう、みんなのバカぁ!

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