スポーツの秋? ダンスゲーム対決

「ん~、終わったぁ!」
大きく身体を伸ばしなら、アリサが高らかに宣言する。
その表情がとても楽しそうに見えるのは見間違いなんかじゃないだろう。

なんといっても今日は、中間試験の最終日。
古典がちょっと危なかったけど、それ以外はなんとかなったと思う。
……というか、思いたい。

「というわけでゲーセンに行くわよ。今日は遊びつくしてやるんだから」
アリサの言葉に意義は出なかった。

本当はなのはとふたりきりで買い物とかしたかったけど、こうしてメンバーが揃うのもめったに無い。
それに明日からは試験休みも含めて5連休。
買い物の機会はまだまだあるはず。だったらみんなと楽しまなくちゃ損だよ。
そんな訳で私たちはゲームセンターへと向かった。

ゲームセンターに来るのは久しぶりだから、ちょっとだけ楽しみ。
あんまりゲームは得意じゃないけど、なのはのプレイを見ているだけですごく楽しい。

だってなのは、本当に上手なんだもん。
たまにパズルゲームとかで対戦するけど、大抵の場合、手も足も出ず完敗。
ハンデを付けてもらって、ようやく勝率が4割を超えるかどうかってところ。

実際今日も、
「やったぁ、勝ったよ」
「あう、負けた。やっぱりなのは強いよ」
3戦3敗。

途中まではいい試合展開なのにあと一歩及ばず、という試合ばかりで少し悔しい。
なのはの嬉しそうな顔を見れたからそれでいいけど。

だって今日の古典のテストが終わった時、なのはってばこの世の終わりが来たみたいな顔をしていたから。
尤もなのはに言わせれば、私も同じだったみたいだけどね。……奥の細道の序文が長すぎるんだよ。

古典の先生への恨みを念じていると、いつの間にかなのはが隣にいた。
どうやらそのままクリアしてしまったみたい。
あのゲームってクリアするのがすごく難しいって評判なはずなのに、なのはは何度もクリア経験がある。
私もなのはに薦められて一回だけ挑戦したけど、3分と経たないうちにゲームオーバー。
うん、やっぱりなのははすごいね。

「そういえば、アリサたちは?」
「向こうのダンスゲームに行ったみたいだよ。なんでもアリサちゃんのお気に入りの曲が入ったとかで」
ダンスゲームか。見てるだけならすごく楽しそうに見えるんだけど、難しそうだから一回もやったことがない。
それにみんなの前で踊るっていうのは、少し恥ずかしいから。

「フェイトちゃん、見に行こうよ」
楽しそうに私を誘うなのは。
そういえば、なのはがこの手のゲームをやっているのを見たことがないな。
多分、運動が苦手だからだと思う。
なのはって歌も上手だから、ダンスゲームとかも上手だと思うんだけどなぁ。
それに、踊ってるなのはも見てみたい。

「フェイトちゃん? どうしたの?」
「あ、ううん。何でもないよ。じゃあ、行こうか?」
「ちょっ、ちょっと待ってよぉ、フェイトちゃ~ん」
返事がなかった私の顔を覗き込んで来るなのは。
なんだかそんな風にして顔を見られるのが恥ずかしくなってきて、
私はなのはの手を引っ張ってアリサたちがいるところへ向かった。

アリサたちの場所はすぐに見つかった。
やっぱり踊っている姿というのは目立つもので、アリサは本当に目立っていた。
でも、そこはアリサ。人の目なんて気にすることなく、楽しそうに踊っている。

「おぉ、なのフェイの到着やね」
「ふたりとも、どうだった?またなのはちゃんの圧勝?」
私たちに気が付いたはやてとすずかが声をかけてくる。というかはやて、なのフェイって何?

「そうだよ、なのはったら本当に、」
「そうでもないよ。今日もギリギリだったよ。もし少し間違ってたら、」
すずかへの答えは、見事なまでに隣のなのはの声に重なった。驚いて顔を見合わせる私たち。

そんな私たちを見たはやてたちの反応といえば、
「ふふっ、ふたりとも仲がいいね」
「なるほどなぁ。ま、いつも通りやったっちゅーわけやね?」
とこちらもいつも通りの回答。そう、なのかな?

「こら、そこ。イチャイチャすんな! っていうか、いい機会だわ。フェイト、あたしと勝負よ!」
いつの間にか曲が終わり、アリサがこっちに来ていた。
画面に表示されているスコアは……AAA。すごい。

「お疲れ様、アリサ。凄い点数だね」
「ふふん、当然よ。……じゃなくて、フェイト。私と勝負よ!」
誤魔化されてくれなかったみたい。でも、本当にそう思ったよ。
AAAなんて滅多に見れるスコアじゃないし、ほとんどパーフェクトみたいなものだ。
それだけアリサがこの曲を好きだということなんだろう。

でも、私には無理だ。今の曲も知ってはいるけど、やっぱり人の前でプレイするのは恥ずかしいよ。

「ごめんね、アリサ。やっぱり私には無理だよ」
今日がいつも通りなら、後でアリサが文句を言って終わりのはず。
でも、今日に限ってはやてが余計なことを言ってしまった。

「そういえば、なのはちゃん。この5連休ってお仕事入っとるん?」
「えっ? 特に予定は入ってないよ。先輩も試験頑張ってこいって」

その言葉をアリサが逃すはずがない。私をステージに上げるために、強烈な一撃を繰り出してきたのだ。
それに乗せられてしまう私もどうかと思うけど。

「じゃあ、勝ったほうがこの5連休でなのはと一緒に過ごせるっていうのはどう?
勿論不戦敗もカウントされるわよ」
……やるよ。勝負だ、アリサ」
こうして私は初めてダンスゲームをプレイすることになった。

その時のなのはの表情が忘れられない。なんだかすごくキラキラした瞳で私を見てきたのだ。
ごめんね。なのはが思っている以上にどうでもいい理由でプレイするんだよ。
だから、そんな風に尊敬のまなざしを向けないで。お願いだよ。

改めてその場所に立ってみると、やっぱり緊張する。
平日だからまだ良かったものの、それでもやっぱり人の目が気になってしまう。
やっぱりアリサは美人さんだからみんな見てるんだよね。さっきもすごいスコアだったし。
その隣でプレイするってだけで、かなりのプレッシャーだ。でも、負けたくない。
なのはと一緒に5連休を過ごしたいもん。

「いい?曲はお互いが1曲ずつ選択。あたしはアンタが知ってそうな曲を選ぶけど、
アンタはなんでも選んでいいわよ。フェイトの知ってる曲ならあたしも知ってるだろうからね」
「解ったよ。でも、ここまで来たら負けないよ」

ジャンケンの結果、先に曲を選んだのはアリサ。宣言通り、私の知っている曲を選択してきた。
難易度も初心者ということで、アリサより2ランク下に設定しているから、何とかなると思う。

「いい? 手加減なんてしてあげないんだから」
「お、お手柔らかに」
そうして、私の人生初のダンスゲームが始まった。

オドオドとパネルを踏む私の隣で、軽快なステップを披露するアリサ。
私の姿は、誰の目にも滑稽に写っているに違いない。当然なのはにも。
どうしよう、プレイしながら不安になってきちゃった。

もし負けちゃったら、連休中はなのはと一緒に遊べないし、連休明けからはお互い忙しい事になっている。
ここを逃すと次の機会がいつになるか解らない。私の頭の中は否定的な考えで埋め尽くされていた。
そんな時、天使の声が私に降り注ぐ。

「フェイトちゃん、頑張れ~」
確認するまでもない、なのはだ。きっと真剣な表情をして、私を応援してくれているに違いない。
そうだ、なのはが私を応援してくれているんだ。どうしてあんなにネガティブなことを考えていたんだろう。
勝てばなのはと一緒に連休を過ごせるんだ。

なら私にできることは? 答えはひとつしかない。とにかく頑張ること。
そこからの私は完全にプレイに没頭していた。

結果から言えば、私の辛勝。と言っても、これは完全に運だと思う。
だってアリサは勝負の前に何曲かプレイしているし、私の方が難易度が低いし。
そんな条件で勝ったなんて言いたくない。でもそんな私にアリサが強い口調で言い放つ。

「条件なんて関係ないわよ、あたしから仕掛けた勝負なんだから。フェイトがあたしに勝った。
それでいいでしょ?」

アリサの言葉に、やや納得しきれ無い所はあるものの頷く。そうか、私、勝ったんだ。
つまりそれが意味するのは、薔薇色の連休。もう居ても立ってもいられずに、思わず叫んでしまった。

「なのは、勝ったよ! 明日は一緒にお買い物に行こうね!」
「ふぇ、フェイトちゃん。その、恥ずかしいよ」

言われてから気づく。そういえば、私ってまだパネルの上にいたんだ。急に恥ずかしくなってきた。
私ったら、なんてことを。でも、仕方ないよね。なのはとの平和を勝ち取れたんだから。
思わず叫んでしまっても仕方ないよね。うん、仕方ないんだ。

「いいわけあるかぁ!」
後頭部へアリサの強烈な一撃が決まった。
でも幸せ絶頂の私にはあまり効かなかった、というわけもなく、しばらくの間悶絶することになる。
でもへこたれはしないよ。なのはと一緒に連休を過ごせるんだから!

 

 

ちなみになのはとの連休は、私に緊急任務が入ったことで完全にお流れになってしまった。
あれだけ頑張ったのに、いったいどういう事なの!?

なのはぁ、一緒にいたいよぉ!!

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