甘酒狂想曲

ある休日。家で寛いでいると、急になのはから電話がかかってきた。
なんでも、私に試食してもらいたいものがあるみたい。
特に用事もなくリンディ母さんたちも仕事でいないため、断る手はない。
すぐにOKを出し、軽く部屋を掃除してなのはを待つ。

掃除が終わってしばらくすると、家のチャイムが鳴らされる。なのはが来たようだ。
急いで扉を開けると、そこには予想通りなのはが立っていた。
ただ予想と違って、手には小さな鍋を持っていたけど。

「いらっしゃい、なのは」
「こんにちはフェイトちゃん、ごめんねいきなり。晶ちゃんが甘酒を作ったから、おすそ分けだよ」
「そうだったんだ」
顔を合わせるやいなや、極上の笑顔を向けてくれる。

そんな顔を見せられると、こっちまで楽しい気分になってしまうから不思議だ。
これも一種のなのは効果なんだろう。

「それで甘酒って何、かな?」
なのはの言葉に聞き慣れない単語があったのを思い出した私は、考えるより先に尋ねていた。

甘酒っていうくらいだから、お酒なのかな?
でもなのはがお酒を進めてくるはずはない。だったら一体何だろう?

「あ、やっぱり知らないんだ。じゃあ、実際に飲んでもらった方がいいかも」
笑顔のまま、楽しそうにしているなのは。
そんなことを言われたら、私もそれ以上聞くことができない。
なのはの言うとおり、楽しみにするしか方法がないみたいだ。

「上がってもいいかな?」
「あ、ごめんね。」
玄関先で話し込むわけにもいかず、なのはをリビングへ案内する。
とはいえなのはもこの家には何度も訪れているから、どこに何があるかはよく解っている。
その証拠になのははすぐにキッチンへと向かった。

「フェイトちゃん、ちょっとキッチン借りるね。甘酒って温めたほうが美味しいんだ」
言いながらコンロを点火するなのは。
何か手伝おうかとも思ったけど、本当に温めるだけみたいだから私に出来ることは限られてくる。
とりあえず、お揃いのカップを用意するくらいしか出来そうにない。

「なのは、カップはここに置いておくね」
「あ、うん。ありがとう」
しばらく温めていると、鍋からいい匂いが漂ってきた。
少なくとも私が今までに嗅いだことのない匂いだ。なんだか期待しちゃうな。

「はい、フェイトちゃん。晶ちゃん特製の甘酒だよ」
甘酒に期待を膨らませていることしばし、温めが終わった甘酒をなのはが持ってきてくれた。
真っ白なその液体は、やはり私が見たことのないものだった。

「これが、甘酒?」
「そうだよ。とりあえず、飲んでみて。すごく美味しいから」
笑顔のなのはに勧められ、恐る恐る甘酒に舌をつける。なのはの言葉通り、すごく美味しかった。
一瞬の苦味に続いて、今まで味わったことのないような甘みが私の舌を支配する。
気づけば私のカップは空になっていた。甘酒の温かさで身体が熱くなるのを感じる。

「どうだった?」
「うん、本当に美味しかった。もう一杯、いいかな?」
大きく頷くと二杯目を持ってきてくれるなのは。
今度はさっきみたいに一気に飲むようなことはせず、ゆっくりと飲むことを心がける。
やっぱり美味しい。それから私は何度も甘酒をおかわりしてしまった。

「フェ、フェイトちゃん? 大丈夫?」
「へ? らいじょうぶだよ、なのは。ちょっろらけ、暑いらけらから」
何杯目か解らない甘酒を飲んだ私に、何故か心配そうな顔を浮かべるなのは。
そんな顔をさせまいと強がってみせるけど、なんだかいつもと違う。
身体がフワフワと宙に浮いているような、そんな感覚の中に私はいた。

座っていることすら億劫になるような、そんな気分だ。
「はれ? おかしいな、なんらか、ねむ、く」
「フェイトちゃん? フェイトちゃん!?」
急速に遠ざかるなのはの顔を見ながら、私の意識はそこでブラックアウトした。

目が覚めると、そこは自分のベッドの上。軽く頭痛がする以外は、特に問題はないように感じる。
あれ、私どうしたんだっけ?
甘酒を飲んでたところまでは思い出せるんだけど、どうしてベッドで寝てるのかな。

「フェイトちゃん、起きた?」
部屋のドアが開き、なのはがゆっくりと顔を出した。でも様子が変だ。
何故かなのはの顔は紅く染まっていて、私を警戒しているかのようにドアから離れようとしないのだ。

「うん、起きたけど……。なのははどうしてドアのところに立ってるのかな?」
「フェイトちゃん、覚えてないの?」
全く身に覚えがない。私の記憶は甘酒を大量に飲んだところで止まっているのだ。
それ以上は思い出そうにも思い出せない。
まるでその部分の記憶だけが、ピンポイントに抜け落ちているような感じだ。

「ご、ごめん。私、なのはに何かしちゃったかな?」
「ううん、覚えてないならいいの。それにしても驚いちゃったよ。
フェイトちゃんったら、いきなり倒れちゃうんだもん」
そこでようやく、なのはが部屋の中に入ってきてくれた。手には水の入ったコップと水差しを持っている。
よく解らないけど、ものすごく水を飲みたかったから大助かりだ。

「ありがとうなのは。喉が乾いてたから嬉しいよ」
「だと思った。フェイトちゃんってば、甘酒をあんなに飲むんだもん。酔っ払って当然だよ」
衝撃の発言に身体が硬直する。酔っ払った?私が?驚愕の事実に脳の処理が追いつかない。

「えっ!? も、もしかして、甘酒って、お酒なの?」
否定してもらいたい一心で問いかける。
でもなのはから返ってきたのは、私の思いを否定するような言葉だった。

「本当は違うんだけどね。でも、ほんの少しだけアルコールが入ってるんだ。
尤も、フェイトちゃんみたいにたくさん飲まなければ問題ない程度なんだけど」
鋭い視線を向けてくるなのは。そう言われると返す言葉がない。

あとで晶さんに聞いて解ったことだけど、確かに甘酒にはほんの少しだけアルコールが入っていたらしい。
この日の私は、それにやられてしまったというわけだ。

「でもわたしもいけなかったよね。お酒だってことも教えないで、フェイトちゃんを止めなかったんだから」
短い沈黙を破ったのは、なのはの謝罪。
明らかに私がいけないんだけど、なのはがそう思っているならあえて口を出すことはしない。

悪いと思ったら自分が謝る。
そしてそれを否定するようなことは絶対に言わない。それが私たちの間で交わされた約束だから。

「よし、じゃあこれでおしまい。いいよね?」
「うん」
問題が解決したことをふたりで確認し合う。
先程までの空気が一気に霧散して、なのはにいつもの雰囲気が戻ってきた。これで一安心だ。

「なのは、安心したら喉が乾いちゃった。甘酒ってまだ残ってるかな?」
「勿論。でも、飲み過ぎはいけないんだからね」
そして私たちは、ふたたびリビングへ戻ったのだった。

「そ、それでフェイトちゃん。ほ、本当に、覚えてないの?」
残った甘酒をふたりで飲んでいると、突然なのはが話しかけてくる。何故か顔を真赤にしながら。
そしてその顔を見た私は、ついに思い出してしまった。酔った私が彼女に何をしたのかを。

「えっと、その、ごめん、ね?」
「お、思い出しちゃったの!? もう、フェイトちゃんのバカぁぁ!!」
シューターの魔法を受けながら私が思い出したのは、服が乱れ顔を上気させたなのはの姿だった。
薄れ行く意識の中、これだけは言える。よく思い出した私。

そして、本日二度目のブラックアウトを経験することとなった。