今日はなのはの家でパーティーがあるらしい。
ちょうどお仕事がなかった私は参加できたけど、 アリサたちは予定が入っていてダメだったからかなり残念。
でも、なのはと一緒にパーティーが出来るならそれもいいかも。
そんなわけで、私となのはは学校が終わるとすぐになのはの家に向かった。
そういえば何のパーティーやるんだろう?
学校で聞いた限りだと七夕っていうイベントらしいけど、七夕って何だっけ?
確か前に本で読んだんだけど、忘れてしまったみたい。
「ねぇ、なのは、」
「楽しみだねぇ、フェイトちゃん」
「……そうだね」
まぁ、後で聞けばいいか。なのはが楽しそうなのに、邪魔したら悪いし、それに私自身すごく楽しみだから。
七夕パーティーってどんなことするんだろう。
未だ見ぬ七夕パーティーに心を躍らせながら、私となのはは高町家の玄関へ入った。
「ただい、ま?」
「お邪魔しま、す?」
扉を開けた瞬間思わず固まってしまった。
玄関で私たちを出迎えたのは、私の身長の3倍くらいはありそうな大きな竹。
唖然とする私たちに、竹の中から声が聞こえた。
「なのはにフェイトか。おかえり、随分早かったみたいだな」
その声は恭也さんのもの。
どうやら竹を持っているのは恭也さんみたいだ。
あんなに大きな竹を一人でなんて、大丈夫かな。手伝った方がいいのかな。
「あぁ、すまないが、ちょっとどいてくれないか。竹を出さないといけなから」
「あ、ごめんなさい」
私たちが道を空けると、恭也さんは軽々と竹を外へ運び出した。
やっぱりすごいな、恭也さんって。これで魔法を使ってないなんて反則だよ。
「重くないの? お兄ちゃん」
「あぁ、これくらいなら問題ない」
本当に何の問題もなさそうに言う恭也さん。
私たちは恭也さんの後に着いていった。行き先はどうやら庭みたい。
やっぱり、七夕と関係ある、んだよね?
「そういえばフェイトは七夕に何をするのか知っているのか?」
竹を持ったまま尋ねてくる恭也さん。
なのはが何かジェスチャーをしているけど、
その意味がよく解らなかった私は恭也さんの言葉に素直に頷いてしまっていた。
「はい、ちょっと忘れてしまって」
「そうか、七夕というのはこの竹に願い事を書いた短冊を吊るすんだ。
すると夜中に赤い服の老人がそれを見て、
書いてあるものをプレゼントするために必死に走り回るという酷いイベントだ。
そしてプレゼントされなかった人間は、その老人に対する恨み言を書いて12月24日に送りつけてやる。
こっちがクリスマスだな」
「へぇ、そうなんですか」
恭也さんの説明に感心してしまう。
じゃあ、そのご老人のためにも簡単なものを頼んだほうがいいのかな。
あんまり走り回らせちゃいけないもんね。
なのははどんなものを頼むかを聞こうと横を見ると、そこには呆れた様子のなのはの姿が。
あれ、なんだか様子がおかしい。
「フェイトちゃん、もしかして信じちゃった?」
「えっ?嘘なの?」
なのはに言われて初めて私は、恭也さんが嘘を教えていたことに気付かされた。
全然気付かなかった。だって恭也さん、全然表情とか変わらないんだもん。
絶対だまされちゃうよ。
「ハハハ、すまんすまん。本当のことはなのはに聞いてくれ」
「まったく、お兄ちゃんたら、そういうところ全然変わらないよね」
そんな話をしていると、庭先に到着した。すぐに恭也さんが持っていた竹を下ろして、固定し始める。
その間に私はなのはに本当の七夕の話を聞いた。
少し切ないその話は、確かに覚えた七夕の知識と一致していた。よかった、思い出せて。
なのはの話が終わると同時に、恭也さんのほうも終わったみたい。
さっきまで不安定に立っていた竹は恭也さんの手によってがっちりと固定されている。
よほどのことがない限り、倒れたりはしないはずだ。
「よし、お茶にしよう。……晶達の準備も出来たみたいだしな」
「師匠、そろそろお茶に……、なのちゃんにフェイトちゃん、帰ってたのか。気づかなかったよ」
恭也さんが言った瞬間、晶さんが縁側に顔を出した。
簡単に挨拶しながら、相変わらずの恭也さんの能力に驚かされる。
魔法も使ってないのに誰がいるか解るなんて、本当にすごいと思う。
高町家で一番強いのは恭也さんだよね、やっぱり。
「じゃ、なのちゃんたちの分も用意するから、靴を脱いできなよ。
おいカメ、なのちゃんとフェイトちゃんの分のお茶の準備だ」
「うっさいわ、おサル。こっちも急がしいんや、自分でせぇや」
「なんだと!! テメぇ、下手に出てりゃ付け上がりやがって!」
「いつ下手に出た!? 言葉の意味をしっかり勉強しぃや!」
その、ふたりとも? そんなに喧嘩すると、なのはが……遅かったみたい。
「ふたりとも仲良しなんだよね? まさかそんなふたりが喧嘩なんてしないよね?」
静かなその声にさっきまで言い争っていたふたりが団結して、喧嘩をしていないことをアピールする。
すごく必死な目をしてるところが、ふたりの真剣さを物語っている。
「ち、違うんだ、なのちゃん。これはちょっとしたコミュニケーションなんだ、な?」
「そ、そうやで。ウチら仲良しやもん」
「そうだよね、ふたりとも喧嘩なんかしないもんね。じゃ、フェイトちゃん行こう?」
「う、うん」
前言撤回、高町家最強はどうやらなのはのようです。
その後、お茶を飲んでくつろいでいると美由希さんが帰ってきた。
手には本屋さんの紙袋。どうやらまた、たくさん本を買ってきたみたい。
後でまた、何冊か貸してもらおうかな。
「ただいまぁ、お、フェイトちゃん来てたんだ、いらっしゃい」
「お邪魔してます」
頭を下げると、美由希さんが苦笑する。
美由希さんからはあまり畏まらなくていいって言われてるけど、仕方ない。
どこでも礼儀正しくっていうのはリニスに教わったことだから。
「さて、馬鹿弟子も帰ってきたことだし、短冊を吊るすか。おい、そこの役立たず、短冊を持ってこい」
「せっかく帰ってきた妹に対してどういう仕打ち? こっちは高校という戦場から、」
「ふむ、では今夜の鍛錬は特別に厳しくしてやろう。なに、礼ならいらんさ。
なにせ毎日戦場に行っているようだからな、訓練してもしすぎることはないだろう」
「取って参ります、お兄様」
ものすごい速さで回れ右すると、美由希さんは短冊を取りに戻った。
そんな様子を見ていると、隣に座ったなのはに話しかけられる。なんだか、すごく楽しそう。
「フェイトちゃんは、短冊に何書くか決めた?」
短冊に書くことはもう、とっくに決めてあった。なんでそんなこと聞くのかな?
そんなこと聞かれるとなのはのも聞きたくなっちゃうよ。
「うん、一応……。なのはは?」
「わたしも決めてあるよ。書き終わったら見せっこしようね」
笑顔で言うなのはにノーとは言えない。
大きく一回頷いたとき、短冊を持って美由希さんが帰ってきた。
そのまま短冊をひとつ渡される。色は黄色。私の魔力光に近い色だ。
隣のなのはを見ると、なのははピンクだった。もしかして、狙ってやってるのかな、美由希さん。
「全員に行き渡ったか?じゃあ書くぞ」
恭也さんの言葉に全員が黙々とペンを走らせる。
えと、これでいいのかな?やっぱり文字を書くのは難しいよ。
それでも悪戦苦闘しながら、なんとか書き終えることが出来た。
「書けた、フェイトちゃん?」
「うん」
ひと足先に書き終わっていたらしいなのはが笑顔で短冊を持っている。
そんな顔をされると、どんなこと書いたのかすごく気になっちゃうよ。
「じゃあ、せーのでいくよ。……せーのっ」
ピンクと黄色の短冊が同時に出される。
その数秒後、私たちは笑ってしまっていた。だって、短冊に書いてあることが同じだったから。
「ありがとう、なのは」
「こちらこそ、ありがとう、フェイトちゃん」
何故かふたりでお礼を言い合ってしまう。
仕方ないことだろう。短冊に書いてあることを読めば、そう反応してしまっても全然不思議じゃない。
「ふたりとも、楽しそうなところ悪いが、短冊を吊るすぞ」
「「あっ、は~い」」
不意に恭也さんから声をかけられる。
同時に返事をしてしまったことにまた笑いながら、私たちは竹の傍まで歩いていく。
そこでなのはがまたもや提案してきた。当然、それに異論はなかった。
「お兄ちゃん、近くに誰かいる?」
「いや、どうやらいないようだが。まぁ、ほどほどにな」
どうやら恭也さんにはお見通しみたい。
苦笑しながら、私たちはデバイスを起動して、少しだけ宙に浮く。
そう、一番高いところに短冊を吊るすためだ。
「今なら大丈夫だ。手早くな」
恭也さんが再度許可を出してくれる。その言葉を信じて、私たちはもう少しだけ上昇した。
「ここでいいかな?」
なのはが決めた場所は、頂点より少し低いところ。
ここなら塀を越えていないから、見られる危険性もないだろう。
なのはの言葉に頷いて、短冊を吊るした。すぐ隣になのはの短冊も吊るされる。
「あっ、見てフェイトちゃん。一番星」
指差された方向には確かに煌く星が。
するとなのはが私の手を取った。少し恥ずかしいけど、やっぱり嬉しいな。
「一番星に願い事をすると、その願い事が叶うんだって。一緒に願い事しようよ」
「うんっ」
目を瞑ってさっき短冊に書いたことを星に願う。大丈夫、絶対に叶うよ。ううん、叶えてみせるよ。
そう決意すると、目を開く。どうやらなのはと同時だったみたいで、思わず目が合う。
「フェイトちゃんはどんなお願いしたの?」
「さっき短冊に書いたことだよ」
「ふふっ、わたしも」
星の煌きが増す中、私となのははもう少しだけ、そうやって星を見ていた。
少しでも長く、星に願いを届けるために
『フェイトちゃんとずっと一緒でいられますように』
『なのはとずっと一緒にいられますように』
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