高町ヴィヴィオの夏休み―ヴィヴィオちゃんもお年頃?―

8月○☆日

 

今日はみんなで海に来ています。
みんなというのは、わたしたちの一家と雫ちゃんの一家、それにカレルとリエラです。
本当は他の人達にも声をかけたのですが、残念ながら集まれたのはこのメンバーだけ。

それでもわたしは少しご機嫌です。何故かって?だって雫ちゃん以外に、カレルとリエラがいるんだもん。
この前の鬼ごっこには参加できなかったふたりの参加は、わたしにとってすごく楽しみなことのひとつです。
ふたりともわたしより年下だから、わたしもお姉さんになれるんです。

普段は同級生かそれより年上の人との交流の方が圧倒的に多いわたしですから、
こういった機会は何よりも大事なものです。
とはいえもふたりともすごくいい子だから、あんまりお世話することもないのが少し残念です。
多分この辺りの教育はフェイトママやエイミィさんの影響に違いありません。
聞き分けがいいのはすごく嬉しいけど、少しは頼ってほしいと思ってしまうのは贅沢なのでしょうか?

尤も雫ちゃんに言わせると、
「心配しなくても大丈夫だよ。そのうち、ヴィヴィオがお世話される方になってるから」
らしいです。

む~、雫ちゃんたらいつまで経っても子供扱いするんだから。
わたしとふたつしか違わないのにずるいよ。

とにかく、今日はわたしたち子供組にとって最高の日になりそうです。
それにしても、雫ちゃんの家のプライベートビーチ凄いなぁ。
こんなに綺麗なのに誰もいないんだもん。忍さんに感謝しないといけないですね。

さてと、何して遊ぼうかな。一応、イロイロと持ってきてるんだけど、まずはどれがいいかな?

「カレル、リエラ。何したい?」
「僕たちはお姉ちゃんが決めたのでいいよ。あんまり海って来たことないから、よく解らないんだ。
ね、リエラ?」
「うん。だから、すごく楽しみにしてたんだよ。昨日なんて寝るまで、すごく時間がかかっちゃったもん」

年少のふたりはそう言うと、わたしの方をじっと見つめてきます。
本当に楽しみにしてたみたい。これじゃあ、何していいか少し緊張しちゃうな。

「よし、ビーチバレーしようよ」
雫ちゃんがそう提案してきましたが、それは少し遠慮したいところです。
だって、雫ちゃん強すぎるんだもん。あの父にしてこの子あり、ということでしょうね。

「1対3でいいなら、いいよ?」
「う~ん、できなくはないと思うけど、つまらないでしょ?」
無理と言わない辺りはさすが雫ちゃんですが、1対3のバレーっていうのもなんだかつまらない気がします。

雫ちゃんのことですから本当になんとかしてしまいそうな気がしますが、もしそうなった場合、
わたしのプライドとかイロイロなものが傷つきかねないので遠慮したいところです。

「じゃあさ、なのはさんとフェイトさん呼んでこようよ。それでチーム作れば3対3でしょ?」
どうやら雫ちゃんの頭の中ではすでにビーチバレーをすることに決まっているみたいです。
とは言っても、特にその案に反対できそうな案もないので、それで構わないのですが。

「じゃあ私、ふたりを呼んでくるね」
「あっ、ちょっと、雫ちゃん!」
わたしの制止も聞こえていないのか、雫ちゃんはあっという間に走っていってしまいました。
はぁ、雫ちゃんったら。

でも、このまま立って待ってるだけというのもなんだか虚しいものがあります。とりあえず、
「海に入ろうか?」
「「うんっ!」」
ふたりの返事を聞いて、海で待つことにしました。
せっかく海に来たんだもんね、入らなきゃ損だよ。

海でふたりと水のかけ合いをしていると、雫ちゃんに連れられ、ママたちがやって来ました。
その様子を見て、少しだけ憂鬱になってしまいます。
だって、ふたりとも、その、女性として出ているところがしっかりと出ているものですから。

解っていますよ、年齢的なものがあることくらい。でもやっぱり、羨ましいなぁ。
そんなことを考えていると、雫ちゃんがチーム分けを始めました。

「よし、じゃあチーム分けだね。私とヴィヴィオが別れるとして、カレルはどっちがいい?」
「リエラと一緒がいいけど、それは無理みたいだから、リエラから決めていいよ」
「私?う~ん、じゃあ、雫お姉ちゃんがいいかな」

ちゃっかりと雫ちゃんを選ぶリエラに苦笑い。
わたしが同じ立場でも、同じ選択をしていたでしょう。……悲しいことですが。

「流石リエラ、いい選択だよ。一緒にカレルとヴィヴィオをやっつけちゃおう」
「うん! 覚悟してよ、カレル」
「僕たちだって負けないよ! ね、お姉ちゃん?」
「うんっ、勿論だよ」
さっき思っていたことを口に出すことなど出来るはずもなく、わたしはカレルの言葉に頷きました。

そうだよね、試合の前から負けるなんて考えちゃダメだよね。ちゃんとしないと。
わたしがお姉ちゃんなんだから。

「で、わたし達はどっちに入ればいいのかな?」
「じゃあ、ジャンケンで勝ったほうがヴィヴィオ、負けたほうが私のチームで」
こうして、なのはママが雫ちゃんチーム、フェイトママがわたしのチームになったのでした。
なんだかさっき決意したのに、もうすでに心が折れそうになっちゃうよ。

 

試合のほうは、私の予想通り負けてしまいました。その最大の問題はフェイトママでした。
フェイトママがアタックのタイミングで、なのはママがコースをブロックするのですが、
これがフェイトママにとっては致命的。ものすごく甘い球を打ってしまうのです。

フェイトママ、なのはママを愛しているのはよく判るんだけど、こういう時はもう少し考えてほしいな。
特にカレルが頑張ってたから、尚更ですね。

試合が一段落すると、なのはママたちはおやつの準備にお屋敷の方へ戻っていきました。
フェイトママが少し泣きそうな顔をしているのは、さっきなのはママに怒られていたからでしょう。

曰く、
「フェイトちゃんがわたしのこと大切に思ってくれてるのは解るけど、
こういう時には手加減しないでほしいな」
とのこと。

うん、わたしもそう思うよ。 フェイトママは少し優しすぎると思うのです。
とはいえ、そうじゃないフェイトママを想像できないのが、少し悲しいですが。

それにしてもふたりともやっぱり大きかったなぁ。
一応、自分の将来の姿は知っているわけですが、実際にああなるかどうかはまだ解らないわけで、
なんとも複雑な気分です。

「それにしても、なのはさん達も大きいよね。母さんといい勝負だよ」
「そうだよね……って、雫ちゃん何言ってるのっ!?」
思わず雫ちゃんの言葉に頷いてしまいまったわたしは、必死にごまかそうとしますが、
雫ちゃんには全部お見通しのようです。恭也さんにすごく似ている笑顔を浮かべています。

「隠さない、隠さない。ヴィヴィオの目線を追ってれば解るよ。それに私たちもお年頃だしね。
そういうのが気になっても仕方ないんじゃないかな?」
「お年頃、なのかなぁ?」
そう言われてしまえばそれまでかもしれないですね。

確かに、最近になってから意識し始めていますから、順調に成長してるってことなのでしょう。
なんだか、自分で言ってて少し恥ずかしくなってきました。

「そう、お年頃。いいんじゃないかな、順調に成長してるってことだよ。私も、ヴィヴィオもさ」
綺麗な笑顔で、わたしが考えていたことを言う雫ちゃん。どうして、同じことを考えるのかな。
本当に不思議です。

「ま、ヴィヴィオも私も母親がああだから、今後に期待ってことだね」
「雫ちゃん……
雫ちゃんはわたしのことを知っています。

それにも関わらずこういう事を言ってくれるのは、本当に嬉しいです。
やっぱり雫ちゃんは雫ちゃんなんだね。

「ありがとうね、雫ちゃん」
「止めてよ、なんか、身体がむず痒いよ。私は本当のことしか言ってないんだから」
照れたところもいつもの彼女らしいです。でも、本当に嬉しかったんだよ。

「あっ、カレルたちのところに行こうか? こっちに手を振ってるしね」
照れ隠しなのはバレバレですが、確かにカレルたちが手を振っていました。
そういうところに目ざといところもやっぱり雫ちゃんだな、なんて思いましたが口には出しません。

拳骨が飛んできちゃいます。しかもものすごく痛いんですよ、雫ちゃんの拳骨。
なんでも恭也さん仕込みらしいです。

「お姉ちゃ~ん、こっちで遊ぼうよぉ~」
「水が冷たくて、気持ちいいよぉ」
「うん、今行くよぁ!」
返事をしてから、雫ちゃんと頷き合います。

「じゃあ、」
「競争だね」
どちらがスタートの合図を出すわけでもなく、わたし達は走り始めました。
高町ヴィヴィオ、少しだけ成長したある夏の日のひとときでした。

 

 

 

「ねぇ、お姉ちゃん。さっき何の話してたの?」
カレルの質問に、わたしが凍りつくのはしばらく後のことです。

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