あこがれの?ジューン・ブライド

今日は学校も管理局もお休み。ということなので、私となのはは街へ繰り出していた。
簡単に言ってしまえばデート中というわけだ。

そして今はウィンドウショッピングの真っ最中。
でも正直な話、なのはを見ているほうがよっぽど面白い。
瞳を輝かせながら、あっちへ行ったりこっちへ来たり。思わずお持ち帰りしたくなってしまいそう。

「フェイトちゃん。見て見て~。あれ、すごく可愛いよ」
「うん、そうだね」
まぁ、そういう風にしているなのはが一番可愛いんだけどね、なんてことは思っても絶対口には出さない。

だって言ったらなのはに気付かれちゃうから。
気付かれたら今日はもう、こんな可愛い姿を見せてくれないに違いない。前のデートのときはそうだったし。

……思い出したら凹んできた。だからこそ、執務官として同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。

「どうしたの、フェイトちゃん?もしかして、退屈?」
突然なのはが声をかけてきた。しまった、考えに夢中になっていたせいでなのはの方を見てなかった。
これじゃあ本末転倒だ。

「そっそんなことないよ。なのはと一緒なのに退屈なわけないよ」
「そう? でもフェイトちゃん、さっきから全然話してないし……
そう言うと目に見えて落ち込むなのは。

あぁもう、私のバカ。なのはにこんな顔させちゃいけないのに。

「違うよ。私はなのはが楽しそうだったから、声をかけられなかったんだ」
「そうなの? もしかして、なのはのこと嫌いになった?」
ゴメン、なのは。ものすごい破壊力だ。お願いだから涙目プラス上目遣いの極悪コンボはやめて。
いろいろと堪えるのが大変だから。

「まっまさか。私がなのはのことを嫌いになるわけないよ」
「よかったぁ。フェイトちゃん、だ~い好き」
さっきの顔が嘘のような笑顔。そしてそのまま私に腕を絡ませてくる。

うん、すごく嬉しいよ。でももう少し自重してくれるともっと嬉しいかな。主に私の理性にとって。
でも、そんな私の想いなんて露知らず。なのははそこからずっと私の腕を放してくれなかった。
無意識なのがすごく辛いよ。

「フェイトちゃん、顔が紅いけど、どうしたの?」
「なっなんでもないよ」
やっぱり顔が紅くなっていたみたい。当然だよ。だって、こんなに近くになのはの顔があるんだから。
確かに天国のような状況だけど、このままじゃ危険だ。なんとかしないと。

「なのは、少し休憩しない?喉が渇いちゃった」
よし、なんとか詰まらずに言えた。少し声が上ずった気もしないこともないけど、この状況下でよく頑張った、私。
後はなのはがどう答えるかにかかっている。

「あっ、フェイトちゃんも?実はわたしもそう思ってたところだったんだよ」
なんて言いながら笑いかけてくるなのは。あぁ、もう、可愛すぎだよ。
でもこれで当面の危機は去ったと見ていいだろう。 そのことに安堵しつつ、適当な喫茶店を探し始める。

が、突然私の身体が止まった。私の意志じゃないということは、隣で腕を組んでいるなのはが立ち止まったということだ。

「なのは?いきなり止まってどうしたの?」
返事はない。ちらりとなのはの方を見ると、どうやらショーウィンドウの中のものにご執心の様子。
うっとりとしたその表情に釣られて、私もその方向を向いた。

なるほどこれは、
「綺麗」
その一言しか出てこない。

それだけそれが見る者に対して、存在感を示しているということだろう。
そう、ショーウィンドウの中にあったのはウェディングドレスだった。
なのはと腕を組んでいるという事実もどこかに行ってしまうほど、純白の美しいドレスに私たちはすっかり魅了されていた。

「綺麗だね、フェイトちゃん」
「うん」
なのはの言葉にそれだけしか返すことが出来ないでいた。少しでも注意を逸らすのが惜しいと思ってしまったからだ。
そう感じてしまうような何かを、このドレスは持っていた。

「わたしもいつか、こういうのを着れるのかなぁ」
その呟きはしっかりと私の耳に届いていた。
だからこそ、ウェディングドレスを着たなのはの姿を想像してしまっても仕方のないことだろう。

 

純白のドレスを着たなのはと私が小さな教会の中で見詰め合っている。
目の前のなのははとても可愛くて、とても綺麗だ。

『フェイトちゃん。これからもずっと一緒だね』
『うん。ずっと一緒だ』
近づく唇。永遠の愛を誓い合った私たちは……

 

……イトちゃん? フェイトちゃ~ん?」
「ふえっ!? なっ、なのは!?」
なのはの声で、現実に戻された私。危ない危ない、どうやら、どこか遠くの世界へ旅立ってしまったみたい。
それにしてもさっきのなのは、似合ってたなぁ。

「ねぇ、フェイトちゃん。ジューン・ブライドって知ってる?」
さっきの想像の余韻に浸っていると、なのはが声をかけてくる。
どうやら、なのはには私が如何わしいことを考えていたことを知られてないみたい。

「知ってるよ。6月に結婚した花嫁が幸せになれるって」
「そう。わたしは結婚するならやっぱり6月がいいなぁって」
そう言ってちらりと私を見てくる。えっ? それってもしかして……

「あのっ、なのは。その私も……6月が、」
「あっ、喫茶店あったよ。ほら、行こう」
「ちょっ、なのは!?」

結局私はそのまま、なのはに喫茶店へと連れ込まれてしまった。
まぁ、いいか。この言葉はもう少し後のために取っておこう。

 

『私も結婚するなら、6月がいいなぁ。勿論、相手は君だよ。なのは』

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