高町ヴィヴィオの夏休み―ヴィヴィオ、最強への道―

8月??日

 

「ねぇ、はやてちゃん。模擬戦しようよぉ~」
今日は八神家にお邪魔中。

珍しくはやてちゃんがお休みをもらったので、それに合わせてやって来たのです。
ついでだから模擬戦をしてもらおうと思ったのですが、当の本人はソファに寝転がったまま。
どうにも相手にしてもらえません。

「堪忍してぇ、仕事明けで疲れてるんよ。明日になったら相手してもええよ」
……はやてちゃん、それ昨日も聞いたよ」
実のところ、はやてちゃんのお休みは一昨日から一週間程の予定なのです。

なんでも、部下の皆さんには休みを取らせるくせに自分は取らないものだから、強制的に休まされたらしいです。
ちなみにうちのママたちもまったく同じ理由で昨日からお休みを貰っています。
こういうのってなんて言ったっけ? 類は友を呼ぶ?

それはともかく、昨日もはやてちゃんにお願いしたのですが、同じ言葉で返されてしまいました。
昨日はその言葉を信じちゃったけど……。はやてちゃんって意外と面倒臭がり屋さん?

「そこ、今失礼なことを考えへんかった?」
「べっ、別に考えてないよ。嫌だなぁ、はやてちゃん」
相変わらずの鋭さに思わず驚いてしまいます。

はやてちゃんによればなのはママ並に顔で考えていることが解る、とのこと。
なんかちょっと落ち込んじゃいそうです。
確かに顔に出やすいという自覚はありますが、なのはママほどではないと思います。……じゃなくて!

「はやてちゃん、話を変えないでよ」
「せやかて、模擬戦なんて私とやっても詰まらんよ。
ヴィヴィオやったら、フェイトちゃんあたりとやったほうが為になるって」

確かにはやてちゃんは広域魔法の専門家。
ストライク・アーツ主体のわたしとは戦い方が全然違います。

でも、
「なのはママだって、いろんなタイプの人と戦ったほうがいいって言ってたから。
それにママ達言ってたよ、はやてちゃんが総合的には最強だって」
「あや、そうなん?ちょう、買いかぶり過ぎやなぁ」

これは意外と好感触。
はやてちゃんも少しは考えてくれてるみたいだし。最強って言葉がよかったのかな?
でもとにかく、ここで畳み掛けないと。

「そうだよ。だから模擬、」
「とは言うても、それはそれ、これはこれや」
む~。やっぱり一筋縄ではいきません。さすが元機動六課部隊長さんです。
こうなったら、この手を使うしかないみたいです。少し恥ずかしいけど。

「模擬戦しようよ、模擬戦。ねぇ、いいでしょ?」
「あ~あ~、何も聞こえへんよぉ~」
とうとう両耳を塞がれてしまいました。
最後の手段はあっさりと負けてしまいました。と、ここまでは昨日と全く同じ流れ。

昨日は時間も遅かったのでここで帰りましたが、今日はまだ日が昇りきる前。
昨日試せなかった方法を試してみたいと思います。

『ねぇ、はやてちゃん、』
『ぴーっ。この念話はただいま電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため繋がりません』
「って、はやてちゃん目の前にいるよ。というより、電波って」
これで完全に八方塞がり。

 

今日もダメかと諦めかけたその時でした。
どうやら運命の女神様はわたしのことを見逃さないでいてくれたみたいです。
その女神の名前はリインちゃん。こちらもはやてちゃんの休暇に合わせて3日の休暇を取ったらしいです。

「ふたりとも、と言うよりヴィヴィオ、さっきからどうしたんですか?」
「リインちゃん、聞いてよ。はやてちゃんがね、」
事情を聞いてくれたリインちゃんに全力で状況を説明しました。

私の必死さが上手に伝わったのか、リインちゃんは何度も首を縦に振ってくれました。
どうやら今のはやてちゃんの様子はリインちゃんなりに思うところがあったようです。

「はやてちゃん、こんなに必死に頼んでるんですから模擬戦してあげたほうがいいと思うですよ」
「リインまでそないなこと言うんか?まぁ、私としても模擬戦してあげたいねんけど、」
そう言うと右手に視線を落とすはやてちゃん。

えっ、何か模擬戦ができない理由があったのかな?
だったらものすごく悪いことしちゃったな、どうしよう?

「久しぶりに横になって寝たら、思った以上に気持ちようて。つい、グダグダしてまうんよ」
ものすごくどうでもいい理由でした。

というより、今爆弾発言を聞いた気がしたのですがよいのでしょうか?
久しぶりに横になって寝たって……。普段どうやって寝てるんでしょうか。
もしかして、フェイトママも同じ感じなのかな?
はやてちゃんと同じように、何日も管理局に泊まること多いし。今度聞いてみようかな?

「はやてちゃん、また捜査官室で寝たですか? 仮眠でも、寝るときは横になるように言ったはずですよ」
「いや、これには理由がな、」
「言い訳無用です! それに一昨日も昨日もゴロゴロしてたですよ! 少しは動いてください!」
そう言うとリインちゃんは、はやてちゃんの中に吸い込まれていきました。

ユニゾンです。その証拠にはやてちゃんの髪の色が白っぽく変化しました。
ユニゾンするときに、リインちゃんがこっちに向かってウィンクをしたように見えたのですが、
気のせいだったんでしょうか?

「ちょっ、リイン。いきなりユニゾンしたらアカンて。こっ、こら、身体を勝手に動かしたら、」
さっきまでソファから降りる気配が全くなかったはやてちゃんが立ち上がろうとしています。
なるほど、リインちゃんが強引にはやてちゃんの身体を動かしてるんですね。

かなり魔力を使うから滅多にやらないって言ってたけど、大丈夫なのかな?
そもそもこの状況は滅多なことに当て嵌るのかな?

「い、いややぁ~、まだゴロゴロしたいぃ~!」
はやてちゃんには悪いけど、目の前の光景はとてもシュールです。
足はソファから離れようとしているのに、両手でソファを掴んで離れないようにしている光景は、
なんとも言いがたいものがあります。

はやてちゃんはともかく、リインちゃんは大丈夫なのかな。
というか、この状況でも寝ようとするはやてちゃんは流石だと思います。

 

激しい戦いは5分経った頃ようやく決着がつきました。とうとうはやてちゃんが折れたのです。
右足で思い切り左足を踏んだりという、かなりの実力行使があったのは事実ですが、
ちゃんと模擬戦の約束は取れました。

「ありがとう、リインちゃん。今度、一緒にパフェ食べに行こうね。美味しいところがあるんだよ」
『了解です。楽しみにしてますよ』
はやてちゃんをその気にさせるという大役を果たしたリインちゃんでしたが、まだユニゾン状態は継続中。
解除したらはやてちゃんがまた横になりかねないからですが、そこまでしてもらうと悪い気がします。
主にリインちゃんに。はやてちゃんは自業自得? だもんね。

はやてちゃんに模擬戦の約束を取りつけたため、いい気分になっていたその時でした。
わたしが奈落の底にたたき落とされる言葉を言ってしまったのは。

「それにしても、今のはやてちゃんのその格好って、お婆ちゃんみたいだよね? 白髪とか、いろいろ」
わたしからしたらほんの冗談のつもりでした。
でも、はやてちゃんにはそう取ってもらえなかったみたい。

今まで少しフラフラしてたのに、言葉を聞いた瞬間からピシッと立ってわたしのほうをじっと見てきます。
怒った時のなのはママと同じくらい、ううん、それより怖いよ。

「誰が、お婆ちゃんみたいや、って?」
「あっ、あのね、はやてちゃん。これはほんの冗談でね、」
「だ・れ・がっ!? お婆ちゃんみたいや、って!?」

あっ、ものすごい笑顔。はやてちゃんの心からの笑顔って本当に癒されるよね。
なんて現実逃避しても目の前の光景が変わることはありません。
逃げようとしても、これは多分無理だと思います。

「あのね、はやてちゃん、お手柔らかに」
「大丈夫や、ヴィヴィオ。ちょいと『最強』の実力を見せたるだけやから」
ここぞとばかりその単語を強調してくるはやてちゃん。完全に逃げ場が失われました。

 

 

その後のことはなるべく思い出したくありません。
とりあえずわたしが感じたことは、最強への道は遥か遠くだってことと、
はやてちゃんには通用する冗談と通用しない冗談があるってことの二つ。

なんでも、私が言った冗談は実際に管理局の一部で囁かれているらしいです。
それははやてちゃんの耳にも届いていたみたいで、今回の悲劇につながったと、
シャマル先生の治療を受けながら聞きました。

でもそのはやてちゃんはどうして隣でボロボロになっているんでしょうか?
世の中は謎で満ちているみたいです。

とにかくはやてちゃんにこういう話は禁句だと、子供ながらに感じた、そんな夏の日の一日でした。
ごめんなさい、はやてちゃん。

 

 

ちなみにフェイトママもはやてちゃんと同じように、泊まりの時は椅子で眠ることが多いそうです。
わたしにそう話したフェイトママはなのはママに連れられていきましたが、
きっと二人で休暇を満喫してるんでしょうね。
邪魔にならないようにわたしは外に出かけることにします。ふたりとも、しっかり休暇を楽しんでください!

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