酒は呑んでも・・・・?

「ただいまぁ~」

すっかり遅くなってしまった。
それもこれも執務長官のせいだ。大きな事件が終わるたびに大宴会を開く。
それはいいことだと思う。でも、空いている執務官全員参加っていうのはどうなのかな?

今回は私が担当した事件だから仕方ないんだけど。
そんなこともあって、今の私には少しだけお酒が入っている。もちろん飲酒運転なんてしていない。
そんなことがなのはにバレたら大変だもんね。

「なのはぁ~?」

もう真夜中。寝てしまっているだろうヴィヴィオのことを考えて静かにリビングに向かう。
外から見たら電気が点いてたから起きているとは思うんだけど。
そんなことを考えながらドアをゆっくりと開く。

「あれぇ~。フェイトちゃん~? お~か~え~り~」

いきなりなのはに抱きつかれた。うん、すごくうれしい。
でもなのはの様子がどこか変だ。妙に顔が紅い。

「もう、あんまり心配させないで。なのは寂しかったんだから」

そんなことを上目遣いで言われても、どう反応していいのかわからない。
というかなのは、可愛すぎる。このままお楽しみモードに入ってもいいに違いない。
きっとそうに決まってる。

「あれぇ~、フェイトちゃんがたくさん見えるよぉ~。にゃはは、なんだか楽しくなってきちゃったぁ~」

……なのはのテンションが妙に高い。そういえば顔も紅いまま。一体どうしたんだろう?

可能性その1。私に会えなくて悲しんでいたところに私が帰ってきたから、
テンションが上がってしまっている。つまり期待している。

可能性その2。本当に体調が悪い。それによって発熱してしまってテンションがおかしくなっている。

可能性その3。これはあんまり考えたくない。でもこうなったなのはを一回だけ見たことがあるから、
考えうる可能性はすべて考慮しなければならないだろう。

つまり、地球の日本というところでは20歳未満が飲んではいけないものをしこたま飲んでしまった、
という可能性。

可能性その1だったら最高だなぁ、なんて考えつつちょっとだけテーブルの上を見てみる。
すぐに視線を戻した。

もしかしたら錯覚ということもあるかもしれない。そう思い直して、もう一度だけテーブルの上を見てみる。
うん、何も変わってない。

テーブルの上にはものすごい量のお酒の瓶。しかもアルコール度数は軒並み40度近くある。
茫然としている私の様子に気がついたのか、なのはの上気した顔が私のことを見つめている。
うわぁ、すごく色っぽい。これで我慢するなんて拷問だよ。

「ほらぁ、フェイトちゃんもグイッと。ね?」
「ちょ、なの、……んっ」

抗議しようとした私の唇はふさがてしまった。
もちろんなのはの唇ではない。それだったらどんなにいいことか。

私の唇を塞いだのは無機質なお酒の瓶。
一口含んだだけで、口内がアルコールの強烈な香りで満たされる。それと同時に猛烈な頭痛。
これはかなりヤバいお酒に違いない。

「ぷはっ。もう、何を飲ませ、た、の?」
「えぇっと、スピリイツス? よく解んないやぁ~。あはは」

息も絶え絶えな私を指さして笑うなのは。
いつもなら怒るところだけど、今回はそんなことをしている場合ではない。

私の予想が正しいなら、これはアルコール度数が95度のウォッカのはず。
そんなものを飲まされて無事にいられるはずがない。普通なら……

「ふぇいとちゃぁ~ん、これ、美味しいねぇ~」
「へっ!?」

でも生憎と私の目の前にいらっしゃるのは、あの高町家究極のハイブリッド。
あろうことかなのはは、私が飲まされた瓶を一気に煽っている。
なのはを止めないと。そんなことしたら、なのはが死んじゃうよ!

「にゃははぁ~、なんだか目が、廻って……

バタンッ!!

クルクルとまるでフィギュアスケートの選手のように華麗なスピンを決めながら、
顔面から床に突っ伏したなのは。音からも解るけどものすごく痛そうだ。

「って、な、なのは!」

目の前の状況に一瞬呆然としてしまったけど、すぐに我に返ってなのはに駆け寄る。
あのお酒を一気に煽って無事なはずがない。取り敢えず、意識の有無を確認しないと。

「にゅふふ~、フェイトちゃぁん。今日も可愛いねぇ~」

……流石はなのは。スピリタスをストレートで飲んでも全然平気なみたい。それはそれで凄いと思うよ。
まったくどんな夢を見てることやら……

とにかく今はなのはをベッドまで運ばないと。
そう思った私は屈んでなのはを持ち上げようとした。その瞬間、

「ダメっ、力が………………

一気にアルコールが回ってきた。一口しか飲んでないのに、もう立てない。
そこまで悟った時、目の前が真っ暗になった。

「ふたりともお酒を飲んでもいいけど、リビングで寝ちゃうまで飲まないでよね!」

翌日、リビングで寝ていた(正確には倒れていた)私たちは、
第一発見者のヴィヴィオにこってりと絞られています。
ものすごく頭が痛い。ガンガンするよぉ。

「お願い、ヴィヴィオ。反省してるから、大きな声出さないでぇ」

母の威厳なんて何処へやら。土下座をして頼み込む。
そんな私と一緒に怒られている私の妻はというと、

「にゃっ!大丈夫、フェイトちゃん!?」

昨日のことなんてなかったかのようにすっかり元気。流石なのは。
やっぱり私とは身体のつくりが違うみたい。

でも、心配してくれるのはすごく嬉しいんだけど、大声出さないで。お願いだから。

こうして私の久しぶりの休暇は娘に怒られながら、妻に心配されるという切ないものになってしまった。
本当はお買い物とか、行きたかったのにぃ。もうっ、なのはのバカぁ~!

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