「「誕生日おめでとう、なのは(ママ)!!」」
ヴィヴィオとふたりで手に持ったクラッカーを鳴らす。
パンッという音と一緒に沢山の色紙が飛び出して、今日の主賓であるなのはに降り注ぐ。
その光景を眼を細めて眺めるなのは。
それだけで私の心が一杯になってしまう。
「ありがとう、ふたりとも。すごく嬉しいよ」
「どういたしまして。なのはが喜んでくれて私たちも嬉しいよ。ね、ヴィヴィオ?」
「うんっ。準備した甲斐があるってものだよ」
妙に大人びた娘の発言に、母親である私たちは軽く苦笑。
年頃の女の子らしくちょっと背伸びしたその物言いがすごく可愛らしい。
「あっ! ふたりともどうして笑ってるの!? ヴィ……私が子供っぽい、とでも言うつもりなの!?」
「えっ、そっ、そんなことないよ。ねぇ、なのは?」
急にそんなことを言われて狼狽してしまう。
ヴィヴィオってば、最近かなり鋭いんだよね。
「……フェイトママ、それは認めてるのと同じだよ」
「えっ!? そ、そうなの?」
「まぁ、フェイトちゃんだからね」
娘だけでなく、最愛の妻にまで呆れられている気がする。
どうやらなのはの誕生日ということでかなり舞い上がってしまっていた様だ。
気をつけないと。
「フェイトママのことはひとまず置いておいて。……はい、なのはママ。私からのプレゼントだよ」
さりげなくひどいことを言われた気がするけど、それは気にしないようにする。
とにかく、ヴィヴィオは丸めた紙をなのはに手渡した。
真ん中が赤いリボンで留められていて、その上に『なのはママ、お誕生日おめでとう』と書いてある。
ヴィヴィオのプレゼントは私も見せてもらっていない。
曰く、最初に見せるのはなのはとのこと。
……別に寂しいわけじゃないんだよ。ちょっと、悲しいだけで。
「ありがとう、ヴィヴィオ。開けてもいい?」
「もちろんだよ!なのはママに最初に見てもらいたいから、フェイトママにも見せてないんだよ」
「フェイトちゃん、見たかったんだ……」
若干、なのはが咎めるような視線を私に向ける。
それに対しては気付かないことにしておく。
とにかく、なのはが紙を開くとそこには、
「これ、わたし?」
「うんっ! それでこっちがヴィヴィオで、こっちがフェイトママ!」
ヴィヴィオが学校で描いてきたらしい絵。
ヴィヴィオを中心にして、両側に私たちが立っている絵。
絵の中の3人は笑顔。これ以上ないくらい晴れやかな笑顔。
ダメだ、目の奥が熱くなってきた。堪えきれない。
「ありがとう、ヴィヴィオ。すごく嬉しいよ。
大事にするね……ってどうしてフェイトちゃんが泣いてるの!?」
「ご、ごめんね。ヴィヴィオの絵を見てたら、なんか、その、」
「感動しちゃったんだね?」
なのはの言葉に素直に頷く。
私となのはが保護した少女が、こんなに幸せそうな絵を描いたことに、私は感動してしまったのだ。
この絵を見るだけで、自分のやってきたことが正しかったと思えるから。
「まったく、しょうがないなぁ、フェイトママは」
「えっ?」
頭に柔らかな感触。
そこには目一杯背伸びをしたヴィヴィオの手があった。
聖王の証である碧と紅のオッドアイが私を見つめている。
「私はいつも幸せだよ。こんなに素敵なママがふたりもいるんだもん。幸せじゃないわけがないよ」
「ヴィヴィオ……」
またも泣いてしまいそうになったけど、今度はそれをなんとかして堪える。
これ以上娘の前で恥ずかしい姿は見せられない。
涙を隠して、笑顔でヴィヴィオを見つめ返す。
「ありがとう、ヴィヴィオ。でも……」
そこで言葉を切って顔を俯かせる。
不思議に思ったらしいヴィヴィオが顔を覗き込んでくるけど、それは計算通り。
娘の顔が見えた瞬間、人差し指でそのおでこを小突く。
「でも、ちょっと生意気だぞ」
一瞬の出来事に呆然とするヴィヴィオだったけど、すぐに状況を理解したらしく、声を上げて笑い出した。
それに釣られて私の顔にも笑みが浮かぶ。
「あははは! もう、フェイトママってばぁ」
「うふふ、でもヴィヴィオだって、」
「あのぉ~」
笑い合う私たちに遠慮がちな声がかけられる。
誰かなんて考える必要はない。この部屋には3人しかいないのだ。
自ずと答えは導き出される。
「ふたりの仲がいいのは、すごくいいことだけど、できればわたしのことも忘れないで欲しいな」
そう、なのはだ。頬っぺたを微妙に膨らませているのがかなり微笑ましいけど、怒っているにちがいない。
というか、目が据わっているんですけど。
「ご、ごめんね、なのは。別に、なのはをのけ者にしたとか、そういうのじゃ、」
「解ってるよ。いやだなぁ、フェイトちゃん。わたし、怒ってなんかいないよ」
極上の笑みを浮かべて言うなのは。
うん、確かに怒ってる。これ以上ないくらいに怒ってるよなのは。
「でも、ひとつだけお願い聞いて欲しいな。それで今回は許してあげる」
怒っていようといまいと、なのはのお願いを断れるわけがない。
ましてや微妙に上目遣いでお願いしてくるなのはを拒絶することができようか。
一も二もなく、私は首を縦に振っていた。
「じゃあ。……フェイトちゃんからのプレゼントは、フェイトちゃんが欲しいな」
「うん、いいよ……って、えぇぇ!?」
思わず即答してしまったけど、 なのはさん、イマナントオッシャイマシタカ?
わた、私が欲しい、こう仰いましたよね?
「なのは、いきなり何言うの? ヴィヴィオだっているんだよ!」
「えっ? ヴィヴィオなら、いないよ」
「いないって……嘘!?」
振り返ると確かにヴィヴィオがいなくなっていた。丁寧に映像メモが残っている。
『なんか私はお邪魔みたいなので、今日ははやてちゃんの家にお泊りします。
ふたりでゆっくりしてください』
笑顔でそう告げる姿がこれまた可愛らしい。
なんて空気の読める子なんだろう。このあたりは絶対になのはの教育の賜物だと思う。
なんて現実逃避してみても状況が変わるわけではない。
目の前では、すでに私の妻が目を輝かせている。こうなったら覚悟を決めるしかない。
「解ったよ、なのは。でも明日は朝早いから……」
「あっ、それなら大丈夫。ちゃんと休暇になってるはずだから」
「嘘っ!?」
慌てて最新のスケジュールを確認すると、確かに明日が欠勤になっていた。
帰る前に確認したときは通常勤務になってたはずなのに。
「じゃ、ゆっくりと楽しもうかフェイトちゃん。プレゼントを堪能させてもらいます」
「いやぁぁぁぁ」
結局次の日、なのはに正しいプレゼントは渡せたけど、身体が全然動かせなくなっていた。
私のせいとはいっても、これはひどいと思うよ。
そして、そんななのはは、その日も元気にお仕事に向かったのでした。
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