For Only Mother

今日も遅くなってしまった。
仕事で遅くなるのはいつものことだけど、こう何日も帰りが遅くなると少し申し訳なくなってくる。
……主に娘と妻に対して。

それでも今日は夕飯の時間には帰ることができた。
よかったぁ1週間ぶりの一家団欒だ、ってこれじゃあお父さんみたい。
確かに夫なんだけど、なんか変だな。そんなことを考えながら、リビングに続くドアを開いた。

「ただいまぁ」
「お帰りなさぁい、フェイトママ」

ドアを開けると愛しのわが娘が飛びついてくる。
最近は魔法の訓練も一生懸命にやっているらしく、少しだけどふらつきそうになってしまった。
それはそれでいいことには違いないんだけど、なのはみたいに無茶をされたら困る。
優秀な先生が何人もいるから大丈夫だとは思うんだけど、少し心配だな。

「ただいま、ヴィヴィオ。でも、いきなり飛びついてきちゃダメだよ」
「はぁい、ごめんなさい」

素直に謝ってくれる。うん、やっぱりいい娘だ。
そう思った私は知らないうちにヴィヴィオを抱きしめてしまっていた。

「フェ、フェイトママ、苦しいよ」
「ごっごめんね。でもヴィヴィオが可愛かったから、つい」
「まぁ、フェイトママらしいけどね」

そんなことを言いながらため息をつく我が娘。
私、何か変なことを言ったのかなぁ。なんだか最近こういうことが多い気がする。
もしかして私、娘に愛されてない!? そっそんな、どうしよう?

「大丈夫だよ。わたしはフェイトママのこと大好きだから、ね」

何故か私の心の声が聞こえたらしいヴィヴィオに励まされてしまった。
おかしいなぁ、もしかして無意識に口に出してたのかな。だったら気をつけないと……

「はいはい。母娘のスキンシップもいいけど、そろそろこっちに来てくれないかな?
ご飯が冷めちゃうよ」

振り向けば、愛しの妻が少し怒ったような顔を浮かべている。
ヴィヴィオがいてくれてよかった、と本気で感謝したい。
いなかったらそのままベッドへ直行だった気がする。
……
昨日もそうだったし。

「ゴメン、なのは。次からは気をつけるよ」
「そうしてもらえると嬉しいな。でも、フェイトちゃんだしねぇ」

ついさっきヴィヴィオから言われた言葉を、今度はなのはからも聞くことになってしまった。
もう、ふたりしてどういうことなの?そんな疑問に答えが返ってくるわけもない。
そのことが解っていた私は、なのはの料理が並ぶテーブルに向かった。
あんまり意地を張っても仕方ないもんね。

「そういえば」
なのはお手製のハンバーグを美味しそうに食べていたヴィヴィオが不意に言葉を発した。
私もなのはも、食事を止めて娘の方へ視線を移す。
そんな私たちの視線なんてお構いなしのヴィヴィオは椅子を飛び降りると、

「ちょっと待ってて~」
とだけ言い残して、どこかへ行ってしまった。

呆気に取られた私たちはお互いの目を見合わせてしまった。
どうも、食事を再開するという気分にはなれない。ヴィヴィオ、どうしたんだろう?

「ねぇなのは。何か心当たりある?」
「さぁ、特になかったとは思うんだけど」

なのはと話しているうちに、ヴィヴィオが帰ってきた。
手を後ろに回していることから、何かを隠していることが解る。
学校のテストかな。でも、ヴィヴィオはそういうのを隠さない娘なんだけどなぁ。

「はい、なのはママ。プレゼントだよ」
そう言ってヴィヴィオが差し出したのは真っ赤な花束。
どうやらカーネーションみたい。そうか、今日は、

「はやてちゃんが、今日は地球で母の日っていう日だって教えてくれたから」
すっかり忘れてた。

そういえば今日は母の日だったんだ。
長い間ミッドチルダに住んでるから覚えていなくても当然かもしれないけど、
はやては覚えてたみたい。流石だなぁ。

「そういえばそうだったね。ありがとう、ヴィヴィオ」
「えへへ、どういたしまして」

頭を撫でられてすっかりご機嫌のヴィヴィオ。
その姿を見てるとこっちまで楽しい気分になってくるから不思議。
そんなヴィヴィオはすっかり満足したのか、
自分の席に戻って食事を再開する……ってあれ、私には?

「ね、ねぇ、ヴィヴィオ。フェイトママにはないの?」
「あれ? だって、母の日は1人のお母さんにプレゼントするものだ、
ってはやてちゃんが言ってたよ。
だから困っちゃったんだけど、父の日っていうのもあるから、そっちで渡せばいいって」

「はやてちゃん……はぁ」
ヴィヴィオの言葉に溜め息を吐くなのは。

はやて、色んな意味で流石だよ。でも、今回は少し悪戯が過ぎたかな。
うちの娘が純粋なのをいいことに嘘を教えるなんて許せないよね。

……別にヴィヴィオに贈り物を貰えなかったからって寂しいわけじゃないんだ。
ただ少し、友達づきあいは考えた方がいいって思っただけだよ。本当だよ。

「フェイトママ、どうかしたの?」
「えっ?」

気がつけば、ヴィヴィオの顔が目の前に。
いけないいけない、
はやてに明日会ったときのことを考えすぎてヴィヴィオに気付かなかったらしい。
これじゃあ母親失格だ。

「ゴメンね、ちょっと考え事してたから」
「もう、せっかくフェイトママにもお花をあげようと思ったのに」

その言葉に驚いて顔を上げると、なのはがウィンクしているのが見えた。
どうやらなのはが教えてくれたみたい。ありがとう、なのは。すごく嬉しいよ。

「ありがとう、ヴィヴィオ。すごく嬉しいよ」
「でも、父の日も期待しててね。一応フェイトママは、お父さんだもんね」
……うん、そうだね」

何故かこみ上げてくるものを必死に堪えながら、ヴィヴィオの言葉にかろうじて頷く。
やっぱり私がお父さんなんだね。いや、別に構わないんだ。
書類上では確かにそうなってるから。
でも、なんだか少し切ないな。

翌日、はやてには特別訓練に付き合ってもらった。
その過程で少しばかり訓練施設が壊れちゃったのは内緒。

やっぱり娘に変な虫がつかないようにしないとね。
そんなことを考えながら、今日もお父さんはお仕事に向かうのでした。

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