SUNSHINE ON SUMMER TIME

暑い。とにかく暑い。こっちに来てから何回も体験しているけど、どうにもこの暑さにはまだ慣れない。
ミッドの夏と違って蒸し暑いのが原因だと思うけど、それすらも今はどうでもいい。
とにかく今は、どこでもいいから早く涼しいところに行きたい。

「フェイトちゃん、フラフラしてるけど大丈夫?」
心優しい彼女が心配してくれる。
その透き通った声は、暑さでやられた私に清涼剤として流れ込む。

「ありがとう、なのは。私ならだいじょ、」
「いやぁ、それにしてもホンマに暑いなぁ。これじゃフェイトちゃんじゃなくても参ってまうな」
そういえばはやてもいたんだっけ。

でもはやて、君はもう少し空気を読むことを覚えた方がいいと思うな。
今だってせっかくなのはが心配してくれたのに、台無しだよ。
そんな私の想いが通じるわけもなく、はやては言葉を続ける。

「その上、特別補習なんて、ホンマ辛いわぁ。他のみんなは休みなのに、私らだけひどい仕打ちや」
そう、今日は特別補習のために私たち3人だけが登校しているのだ。
確かに最近は3人とも仕事で忙しくてあまり学校に行けていなかったから、当然といえば当然だ。

けど、何も今日にしなくてもいいと思う。
天気予報によれば、今日は今年一番の暑さになるらしい。
そして現在時刻は午後1時、最も暑くなる時間。もう、いやだ。

「ほら、フェイトちゃん。もう少しで翠屋に着くから頑張ろう」
そう言って支えてくれるなのは。
今日の補習で唯一よかったことといえば、なのはと一緒だったこと。
そして、少し残念なのはそこにはやてがいた事。

別にはやてがいることが嫌なわけじゃないよ。
ただ、はやてがいると問題が起こるのだ。より正確に言えば、起こしているんだけど。

「きゃっ! ちょっ、ちょっと、はやてちゃんっ!?」
「エエやん、勉強に疲れた私を癒して欲しいんよ」
そう、今も目の前で行われている、本人曰く「癒し」という名のセクハラだ。
ここで怒らなければ、彼氏失格だろう。

「はやて、なのはに何してるのかな? なのはの胸を揉んでいいのは私だけだよ」
毅然と言い放った私に、目の前のふたりはどこか涼しい視線を浴びせる。
別に私は何も悪いことは言ってない。だって、本当のことなんだから。
私の前じゃなくても絶対に許せないことだ。

「アカン。フェイトちゃん、完全に暑さにやられとる」
「みたいだね」
どこか遠い目をするふたりを強引に引き離して、なのはを背中に隠す。
これ以上、はやての暴虐を許すわけにはいかない。

当のなのはは私の行動が予想外だったようで、驚きの声を上げた。
「フェ、フェイトちゃん!?」
「大丈夫だよ、私がなのはを守るから。この世も全てが敵だって、なのはだけを守り抜くよ」
……本格的に危ないみたいやね」

溜め息をついて、はやてが肩を落とす。勝った。私、なのはを守り抜いたよ。
「なのは、早く行こう」
「あぁ、引っ張らないでよぉ」

勝者は悠々と王道を歩むもの。なのはの手を取って、私は翠屋へ向かって歩みを進める。
その後ろでは、はやてがやや疲れたような顔をしながらついて来る。残念だったね、はやて。

あぁ、早く桃子さんのアイスコーヒーが飲みたいな。
お小遣で味わえる最高の一品の味を思い出しつつ、私は意気揚々と翠屋のドアを開けた。

「こんにち、は?」
私は間違って修羅の国の扉を開けてしまったのだろうか。
ちょっと外に出て看板を見直す。うん、確かに翠屋だ。

「どないしたん?入らへんの?」
はやてが不思議がりつつ、ドアを開けた。そして私がしたように、すぐにドアを閉じた。
はやても同じようなことを思ったのだろう。でもそこははやて、簡単には終わらないようだ。

「ほな、ひと仕事といこか?」
はやてが呟いたその言葉に、私となのはは大きく頷いたのだった。
これじゃ休めないけど、仕方ないよね。それに、なのはと一緒だからいいかな。

桃子さんによると、美由希さんたちに急な予定が入って人手不足に陥ってしまったらしい。
特に今日は聖祥が試験休みだから、いつも以上に人がいる。

そんな桃子さんたちを放っておくこともできるわけもなく、私たちは急遽お手伝いを始めた。
ポジションは、
「桃子さん、Aセット3つ追加ですっ!」
「了解、任せておいて」
「なのはちゃん、4番テーブルにアイス3つや」
「うん、すぐに用意するよ」
私とはやてがフロア、なのはがキッチン。

せっかくだからなのはと一緒にキッチンに入りたかったけど、それはさすがに無理。
それでも、私たちは与えられた役目を必死にこなしいく。

その結果、なんとかひと段落着くことができるくらいにお客さんが減った。
翠屋のお手伝いをするのはこれが初めてじゃないけど、こんなに大変だったのは初めてかも。

「お疲れ様、みんな。桃子さん大助かりだったわ。はい、これ。桃子さんからの気持よ」
3人でぐったりしていると、桃子さんがAセットを持ってきてくれた。
ここは素直にその気持を受取る。そうしないと桃子さんに悪いから。
というか、桃子さんが許してくれないから。

「ありがとうございます、桃子さん」
「おおきにです、桃子さん」
「ありがとう、お母さん」
3人でそれぞれお礼を言ってそれを受け取ると、桃子さんは満足したようにキッチンへ戻っていく。

桃子さんは本当にすごいなぁ。
誰よりも疲れているはずなのに、そんな様子を全然見せないんだから。

「それにしても、すごいハードやったね」
パスタを口にしながらはやてが呟くように言う。
それには完全に同意だ。本当に疲れちゃったよ。

「ふたりとも、ごめんね。本当ならわたしだけが手伝えばよかったんだけど」
私たちの会話に入ってこなかったなのはが、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて謝ってくる。

「なのは、謝らないで。私もはやても自分から手伝ったんだから、なのはが謝る必要なんてないんだよ。
それに、私はなのはと一緒にお仕事できて嬉しかったよ」
真面目ななのはを少し愛しく思いながら私は言った。

隣に座るはやても大きく一回頷いた。
その様子に安心したのか、なのはは私が大好きな笑顔を浮かべて大きく頷いた。
よかった、笑ってくれて。やっぱりなのはは笑っている方がずっと素敵だし、可愛いよ。

でも、そんな至福の時を破壊する魔人の姿が。
「せやけど、少しだけお礼をもらってもええかな?」
手をワキワキとさせながら、なのはへと体を突き出すはやて。

そんなセクハラ魔人の手から逃れようと、なのはは必死に胸を隠す。
確かに恥ずかしがってるなのはも可愛いけど、それは私だけに見せてほしいな。

というわけなので、裁きを与えたほうがいいのかもしれないね。

「あ、痛っ!ちょ、フェイトちゃん、今のは相当痛かったんやけど」
「人の彼女に手を出すからだよ」
そう言い放つと、なのはの隣に席を移動する。当然だ。

はやての魔手からなのはを守る義務が私にはあるんだ。
なのはの隣にいていいのは私だけ。私が隣に来たことで安心したのか、なのはが小さく声をかけてくる。

「ありがとう、フェイトちゃん」
「大したことはしてないよ、なのっ、んっ」

愛しい彼女の方へ視線を向けた瞬間、柔らかい唇が私の言葉を遮った。
触れ合うだけだったけど、私にとっては最高のプレゼントだ。お返ししてあげないと失礼だよね、きっと。

「どういたしまして、なのは」
さっきよりも少しだけ長いキス。
なのはとの柔らかい邂逅を終えると、目の前に座っているはやてが呟くのが聞こえた。

「はぁ、こっちほうが外より暑いやんか」
そんな言葉も気にならないくらい、私の気分は最高だった。

当然だよ。だって、私の彼女は世界で一番可愛いんだから。はやてに何を言われても何も感じないよ。

その後、一部始終を見ていた桃子さんにいろいろ聞かれたのは秘密。
なんだか恥ずかしかったけど、いいかな。なのはを守れたんだから。