フェイトさんの休日家族サービス at喫茶店

穏やかな休日の午後。せっかく両親が揃っているのにどこにも行かないなんて勿体なさすぎる、
ということで私たち一家はクラナガンの街へと繰り出していた。
勿論、私の発案。こんな時くらいは家族サービスしないとね。

「フェイトママの言ってた喫茶店って、あそこ?」
しばらく歩いていると、目的地が見えてきた。
いや、実際には見えていないのだけれど、遠くからでも場所が解るくらい人が並んでいる。
本に載るだけのお店だから、当然といえば当然だ。

「うん、そうだよ。でも、ちょっと人が多いみたいだね。違うところに行く?」
ヴィヴィオの質問に答えつつ、サラリと尋ねてみる。
せっかくの家族サービスなのに行列に並んだ記憶だけが残る、
なんていうことにもなりかねない状況を危惧したからだ。
でもヴィヴィオはブンブンと首を横に振り、否定の意を示した。

「大丈夫。ここまで来て、違うところに行くなんて勿体無いよ。ね、なのはママ?」
「そうだね。それに久しぶりにフェイトちゃんからのお誘いだもん。ヴィヴィオの言うとおり勿体無いよ」
母娘そろって嬉しいことを言ってくれる。
お父さんとしては、その言葉を聞けただけで大満足。
となれば、意地でもこの喫茶店でお茶をしていかないとならないだろう。

「ふたりには負けたよ。少し時間かかるだろうけど並ぼうか?」
「大丈夫、三人でお話ししてたら、時間なんてあっという間だよ」
ヴィヴィオの励ましに急かされて、私たちは行列の一番後ろに並んだ。

見たところ、30分~1時間待ちといったところ。
これならば本当に話していればあっという間だろう。

ヴィヴィオの学校のことや、
なのはが最近はやてにセクハラをされたこと(明日話を聴きに行かないとね)を話していると、
本当に時間はあっという間だった。
行列は、気づけば私たちの目の前まで消化されていた。

「もうすぐだね。ここのケーキ、本当に美味しいって評判なんだよ」
学校の友達から仕入れてきたらしい知識を披露するヴィヴィオ。
実を言うと、このお店は管理局内でもかなり有名だったりするのは内緒。
何も娘をがっかりさせることはない。

「コロナによるとね、チョコレートケーキが絶品なんだって。でも、他のもすごく美味しいらしいんだ。迷っちゃうよ」
「そうなんだ。なんだか、わたしも楽しみになってきちゃったよ」
目の前では母娘の仲睦まじい会話。
コロナというのは、多分この前家に来たあの女の子の事だろう。
すごく礼儀正しくて、逆にこっちが困惑するくらいだったのを覚えている。

そんなことを思い出していると、お客さんが店から出てきた。ようやく私たちの番だ。
店員に促され、四人がけのテーブルに腰掛けた。
内装もなかなか綺麗で、どこか翠屋に似ている気もする。
翠屋以外の喫茶店に行ったことがあんまりないから、そう思うだけかもしれないけど。

「ヴィヴィオ、決めた?」
メニューを眺めているヴィヴィオに声をかける。
すると、待っていましたと言わんばかりの勢いでこっちを見上げてきた。よっぽど楽しみにしていたらしい。

「うん。コロナおすすめのチョコレートケーキと、紅茶のセットにするよ」
そう言ってヴィヴィオが指差したのは、メニューの一番上。
『当店のおすすめ』と書いてるところからも、このお店の一番人気なんだろう。
じゃあ私はチーズケーキとコーヒーにしようかな。これで決まっていないのはなのはだけなんだけど。

「なのはは、どう、」
私の言葉はそこで止まった。視線の先にいるなのはが、メニューを凝視していたからだ。
その表情は真剣そのもの。到底声をかけられるような雰囲気ではない。

でも私たちの後にも並んでいる人がいるのは事実。
あまり長く考えているというのも、その人達に悪い気がする。
仕方ないな。

「なのは、何にするか決めた?」
「えっ!?」
本当に驚いたみたいで、眼を丸くするなのは。なんだか少し可愛い。

「だから、何を注文するか決めた?」
「う、うん。アップルパイとコーヒーのセットにするよ」
ようやくなのはの注文を聞き取ると、店員を呼び止めた。

オーダーしたものはすぐにテーブルに届いた。
3種のケーキにコーヒーと紅茶。どれも美味しそう。やはり見た目というものは大事なんだろう。
桃子さんの作るケーキも見ただけで美味しそうだと分かるから。

「じゃあ、いただこうか?」
「うんっ!」
私の問いかけに大きく頷くヴィヴィオ。
フォークでケーキを切ると、口へ持っていってパクリ。刹那、幸せそうな笑顔。
連れてきてよかった、なんて考えながら私もチーズケーキを口に入れる。
甘さ控えめのケーキは、予想以上に美味しかった。思わずなのはに声をかけてしまう。

「美味しいね、なのは?」
だが返事がない。それに驚きながら妻の方を見る。
するとそこには、先ほどと同じような顔を浮かべたなのはがいた。
眉間に皺を寄せて、自分が頼んだアップルパイを凝視している。

【どうしたの、なのは?】
【にゃっ!ビ、ビックリしたぁ~。もう、驚かさないでよ】
何か人に言えない訳でもあるのかと思って念話を使ったけど、驚かせてしまったみたい。
勿論確信犯だけどね。

「それで、どうかしたの?」
今度は声に出して尋ねる。するとなのはは苦笑いを浮かべながら、私の質問に答えてくれた。
「別にたいしたことじゃないよ。これでも一応、両親が喫茶店をやってるからね。
色々気になっちゃうんだよ、メニューとかケーキとか」
「なるほど。なのはらしいね」
心からの私の言葉。

でも、なのはは不満みたい。少しだけ頬を膨らませて、微妙に視線を逸らす。
その様子が面白くて、つい笑ってしまった。
「もう、笑わなくてもいいじゃない」
「ごめんね。でも、なのはが可愛くて」
さらに拗ねたように頬を膨らませる。

きっと気づいていないんだろうけど、その様子がさらに微笑ましさを増す要因になっているのだ。
つまり私が笑いを止めることはない、ということ。
「ひっどぉ~い。いいもん、フェイトちゃんにはもうお菓子作ってあげないんだから」
精一杯の脅迫。でもなのは、私には効かないよ。だって君の眼は、優しそうに微笑んでいるから。
だから私も、笑いながら謝る。それが私たちのルールだから

「ゴメンなさい、なのは。だからそんなこと言わないで」
「ダメです、許しません」
微笑みながらの喧嘩。でももうこらえきれなかった。一瞬目が合った途端、私たちは笑い出した。

「はぁ、ふたりとも外でもいつも通りなんだね」
ヴィヴィオがそう言うのが聞こえた。まったくその通り。これが私たちのいつも通りだ。

こうして私たちの休日は、いつも通り過ぎていった。
「まったく、ふたりとも場所を考えてよね。わたしまで恥ずかしくなっちゃったじゃない」
「「はい、すみません」」
いつも通りヴィヴィオに怒られながら。