ちいさくなったフェイトさん ―母なのはと娘フェイト

視線が下がったことによって、自分の家が思っていたよりずっと大きかったことを知った。
普段何とも思わないようなことでも、見方を変えれば気づくこともあるということだろう。

うん、解ってる。いくら現実から眼を背けたところで、状況が変わらないことくらい。
でも、許して欲しい。なぜなら今、嫌でもそうしたくなるような状況下にいるのだから。

「やったぁ、わたしの勝ちだね」
リビングになのはの嬉しそうな声が反響する。

朝食を終えた私たちは軽く部屋の掃除をすると、こうしてゲームに勤しんでいた。
今対戦しているのはパズルゲーム。これなら操作は簡単だし、何より私でも勝ち目がある。
それになのはとゲームするなんてものすごく久しぶりだから、ものすごく楽しみだった。

問題は、私が座らせている場所。そう朝食の時と一切変わらずに、私はなのはの膝に座らされていた。
その上抱き抱えられる格好になっているから、ずっと柔らかいものが背中に当たり続けていて心臓に悪い。
さっきから鼓動が早くなることはあっても、遅くなることはないのだ。
このまま倒れてしまいそうな気さえしてくる。

「あの、なのは。そろそろ、降ろしてもらえると、」
「ダ~メ。今日一日、フェイトちゃんの座る場所はここって決まってるんだから」
懸命な訴えは、なのはの可愛らしい笑顔によって完全に黙殺されてしまう。

最初から解っていたけど、正直なところこのままではマズい。色々なものが。

「でもね、」
どうにかして降ろしてもらおうと策を巡らせていると、不意になのはが声をかけてくる。

だけど、その顔を見て溜息をつかざるを得ない。
その顔に浮かんでいるのは妖しげな笑顔。
この顔は、私にとってよくないことが起ころうとしているときの顔だ。

「フェイトちゃ、ううん、フェイトがなのはママに可愛くおねだりできたら、考えてもいいよ」
究極の二択を前に、私の動きが停止する。
一時の大恥を取るか、それとも永い永い恥を取り続けるか。

どちらにしても私の心に永久に残り続けることには違いないだろう。無論、なのはの中にもだけど。
それなら、とりあえずこの状況を打破したい。
録画用のサーチャーがないことを念入りに確認してから、半ば自棄になりつつ私は口を開いた。

「なっ、なのはママ、フェ、フェイトを降ろして。お願い……
頭の中で何かが爆発する音が聞こえた気がする。恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
覚悟はしていたけど、実際にやってみると想像していたよりずっと恥ずかしい。

そのあまりの恥ずかしさに思わず俯いてしまう。どうしよう、なのはの顔を直視できない。
もし嫌われたりしたら?
そんな事すら考えてしまっていると、なのはの手が伸びてきて私の顔を上へ向かせた。
顔を上げた先にはなのはの顔が迫っている。

「ど、どうしたの、なの、んっ」
その言葉は不意の口づけによって堰き止められた。
長い大人の舌が、短くなった私の舌と濃密に絡みあう。いつもより激しいキス。
子どもの力で抗うことが出来るはずもなく、しばらくの間、私の口はなのはにされるがままになっていた。

「よくできました」
永遠とも感じられるような時間の後、ようやく満足したのかなのはがゆっくりと口を離した。
完全に脳が蕩けてしまっていた私は、そのことに気づくまで時間がかかったものの、
正気に戻るやいなやなのはとの距離を取ることに成功した。

「いっ、いきなり何するのっ!?」
先程のことが脳裏に浮かぶ中、なんとかなのはに問いただすことに成功する。
しかし当の本人はいたって涼しい顔。
心拍数が急激に上昇している私とは対照的に、動揺をまったく見せずにいた。

「だってフェイトちゃ、フェイトがあまりにも可愛かったからね。そのご褒美」
唇に人差し指を当てながら、さも当然という風にのたまうなのは。
一方の私は、その発言に思わず声を荒らげてしまう。

「なっ、ななっ、何言ってるの!? なのはのバカッ!」
強がってそっぽを向いたけど、私が怒っていないのは明白だっただろう。
その時の私は、耳まで真っ赤になっていたに違いないのだから。

結局その強がりがもったのは、2時間後の昼食までだった。
昼食時になると私の身体はしっかりとなのはの捕獲され、朝食と同じ状態になってしまっていた。

「もうっ、なのはってば本当に反省してる?」
「してるしてる。だからお詫びもかねて、こうしてご飯作ったでしょ?」
そんな満面の笑顔で言われても説得力がない。
だけど、ご飯を作ってくれたのは本当に嬉しい。嬉しいんだけど、

「ねっ、ねぇなのは。どうしてフォークがひとつしかないの、かな? しかもそれ、なのはのだよね?」
そう、せっかくなのはがパスタを作ってくれたというのに、食べるためのフォークがひとつしかないのだ。
勿論お皿はふたつある。

「そんなの決まってるよ。なのはママが食べさせてあ・げ・る。さっきのお詫びにね」
予想はしていたけど、精神が拒絶していた答えをあっさりと口にするなのは。
自分のフォークを取りに行こうにも、しっかりとガードされているためそれもできない。

「はいフェイトちゃん、あ~ん」
パスタをフォークに絡ませ、ものすごく楽しそうな顔を浮かべながらそれを差し出してくる。
断ることも出来るだろうけど、そうしたらご飯が食べられなくなってしまう。はぁ。

「あ、あ~ん」
恥を忍んでおずおずとそれを口に入れる。ものすごく美味しい。
流石なのは、抜群の茹で加減だ。それにこのソースもパスタによく合っている。
後で作り方を教えてもらわないと。

そんなことを考えていただろうか、気づいたら私は恐ろしいことを口にしていた。
「母さん、もう一口」
言ってから激しく後悔する。あまりの美味しさに思わず思考力が鈍ってしまったようだ。

ゆっくりと顔を見上げると、そこにはさっきと同じような笑顔を浮かべたなのはの姿が。
「いいよ、フェイト。沢山食べないと大きくなれないものね」
それからはなんともいえない昼食となってしまったのは言うまでもないだろう。

結局私たちは、ヴィヴィオが帰ってくるまでこんなことを繰り返していた。
確かに身体は休まったけど、精神的にはものすごく疲れた気がする。
次の相手はヴィヴィオ。どうか、お手柔らかにお願いします。本当に……