「うわぁ~、たくさん積もったね~」
「本当だね。……雪かきが大変だけど」
「ん? 何か言った、なのはママ?」
「ううん、なんでもないよ」
愛娘に怪訝そうな顔を向けられ、慌てて取り繕う。
昨日の晩からミッドは大雪で、当然のように道路は封鎖。
おかげでフェイトちゃんは帰ってこれなかった。
それだけでもかなりフラストレーションが溜まっているのに、
目の前にはゆうに10センチは積もった真っ白な地面。
ヴィヴィオには最高かもしれないけど、雪かきのことを考えると余計にストレスを感じてしまう。
「ねぇ、なのはママ」
「何、ヴィヴィオ?」
「後で雪合戦しようよ」
「いいよ。負けないんだから」
無邪気なヴィヴィオに誘われて、思わず首を縦に振ってしまいました。
まぁ、いいか。雪かきは後でやれば。
そう思ったわたしは、朝食のためにヴィヴィオを部屋に連れていくのでした。
朝食も終わり、ヴィヴィオは元気よく駈け出して行く。
その様子に苦笑しつつ、わたしもしっかりと寒さ対策をしてから外に出ようとする。
と、ちょうどその時通信が入った。フェイトちゃんからだ。
それは嬉しいんだけど、残念なことにヴォイスオンリー。
「もしもし、なのは?」
「うん、フェイトちゃん大丈夫?帰ってこれそう?」
「大丈夫。さっき道路の規制も解除されたから、もうすぐ帰れそうだよ。そうしたらヴィヴィオと雪合戦ができるね」
「にゃはは。そ、そうだね」
娘と同レベルな夫の発言。
思わず頭を抱えそうになるけど、フェイトちゃんだから、と頭を切り替える。本当にヴィヴィオに甘いんだから。
「それもいいけど、しっかり雪かきしないとね。かなり積もってるよ」
「任せて。なのはのために頑張っちゃうから」
「もう、フェイトちゃん、だ~い好き」
思わず本音が口に出てしまった。だって仕方がない。
こんなにいいパパはどこを探してもそうはいないと思う。
少し身内びいきが入っているかもしれないけど。
「もうっ、なのはってば・・・・。じゃあ、急いで帰るね」
「はぁ~い。でも運転には注意してね」
「解ってる。それじゃあまた後で」
「うん、後でね」
そう言って通信を切る。
フェイトちゃんがどこからかけてきたのかは解らないけど、あの様子だと後30分くらいで帰ってきそう。
それまでヴィヴィオと遊ばなくちゃ。
「ママぁ、まだぁ~?」
「はいはぁ~い、今行きまぁ~す」
娘の催促に私は慌てて部屋を飛び出した。
まさに一面の雪景色。海鳴だとこんなに積もることは珍しいからわたしとしてもかなり珍しい経験だ。
「フェイトちゃんがもう少しで帰ってくるから、それまで軽くウォーミングアップしてようか?」
「うんっ」
そうしてわたしたちは、フェイトちゃんが帰ってくるまで必死に雪だるまを作った。その数は3体。
一番背が高いのがフェイトちゃん、少し小さいのがわたし、そして小さくて可愛いのがヴィヴィオ。
解りやすくていいんじゃないかな?
予想通り30分後にフェイトちゃんが帰ってきた。
わたしたちはフェイトちゃんが車を降りる瞬間を狙って、雪玉を投げました。
「ただい……はっ!?」
でも、フェイトちゃんの驚異的な身体能力で回避されました。
というより、魔法を使って回避するのは反則だと思うのですが。
「フェイトママ、魔法使っちゃダメだよぉ。絶対に当たるわけないじゃない!」
「だっ、だってぇ、ふたりがいきなり、」
「むぅ~」
「……ゴメンナサイ」
娘に怒られ、涙目になりながら謝る我が夫。
可愛らしくもあり情けなくもあるその姿に軽く眩暈を覚えながら、わたしは手に持った雪玉を軽く投げる。
それはフェイトちゃんの頭にクリーンヒット。さっきまでの涙目から一転、呆気に取られたような顔に。
そこで攻撃の手を緩めてはいけない。ヴィヴィオと一緒に雪玉を投げます。
「油断大敵だよっ、フェイトちゃんっ!」
「ちょっちょっと、ふたりとも、きゃっ」
「え~い、え~いっ!」
「もうっ、怒ったんだからぁ!」
そこからなし崩し的にわたしたちは雪合戦突入。
その時間、およそ2時間。よくそんな体力があったな、とか思ったりしたのは内緒。
やっぱり楽しい時間は早く過ぎていくものなのかな。
でも、元気だったのはここまで。
疲れて眠ってしまったヴィヴィオを部屋に戻して、夫婦で恐怖の雪かきタイム。正直、辛い。
「ほら、なのは。もう少しで終わるから」
「フェイトちゃん、それ1時間前から言ってる。っていうか、まだ3割くらいしか終わってないよぉ」
結局、雪かきは4時間も続いたのでした。
でも、フェイトちゃんとたくさんお話できたからよかったのかな。
その代償として筋肉痛が待っているのは確実だけど。
翌日、ありえないくらいの筋肉痛に苛まれたわたしとフェイトちゃんは仲良く休暇を取った。
やっぱり慣れないことはするもんじゃない。
それよりもどうして魔法を使わなかったのか、なんて今更のように考える。
フェイトちゃんもどうして提案してくれなかったんだろう。
「う~ん、なのはと少しでも長く雪かきをしていたかったから、かな?」
首をかしげながら可愛らしく言うフェイトちゃんを前に、我慢できるはずがない。
その日はベッドの中で大半を過ごすことになってしまった。
さらに翌日、わたしたちはひどくなった筋肉痛に顔をしかめながら職場に向かうのでした。
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