試験のご褒美は……?

眼前に迫った強大な敵。誰もが避けては通れぬ究極の敵。
私も例外ではなく、そんな最強の敵に立ち向かおうとしている。愛しのなのはとともに。

「なのはは可愛いねぇ」
「フェイトちゃ~ん、現実逃避しても試験は待ってくれないからね~」
「うぅ、嫌な現実を思い出させないで~」
「仕方ないよ、わたしたちはただでさえ出席日数がギリギリなんだから、せめて試験は真面目に受けないと」
「解ってる、解ってるんだけど……

私が明日立ち向かうべき試験は3つ。これですべてが終わるけど、最大の難関が待ち受けている。
数学、まぁこれは大丈夫。魔法は理数的な能力をフルに使うから、そんなに問題はないはず。
実際にこれまで特にひどい点数は取っていない。
英語(文法)、これも多分大丈夫。
バルディッシュもいるし、基本的にミッドの言語に近い感じだからなんとかなる。

そして、最大の難関。それは……

「ねぇ、なのは。どうしても覚えられないんだけど。ていうか、読めないんだけど」
「はぁ……まだ一行目だよ。それは『ぎおんしょうじゃ』って読むんだよ」

そう、古典。こっちに越してきてから大分時間が経つけど、古典を習ったのは中学に入ってから。
それはなのはたちも同じはずなんだけど、やっぱりそれまでの経験が桁違い。
必然的に古典を読む能力も少し劣る。

「でもなのは、教科書には『ぎをんしゃうじゃ』って書いてあるよ。
それにここ。こっちは『しゃらさうじゅ』って書いてあるし、訳が解らないよ」
「う~ん、昔の人が使ってた通りに書いてあるからね~。やっぱり実際に使って覚えるしかないよ」
「それに漢字もすごく難しいよ。こんな漢字、今まで見たことないし」
「それはわたしも同じだよ」

簡単にいえば、古典は私にとって魔術の呪文。
見たこともない漢字も頻繁に出てくる上、時には見たことのない平仮名だって出てくる。
こんなのが読める人はきっと過去の世界からタイムトラベルしてきた人間に違いない。
どうして、はやてやすずかは楽しそうに読んでいるんだろう?

「でも今回は、暗記すれば大丈夫だって先生も言ってたでしょ?」
「そうなんだけど、暗記する前にどうしても読めないんだよぉ」

暗記する一番効率的な方法は自分の声に出して読むこと。それは解ってる。
歌とかでも、実際に歌ったほうが覚えはいい。
でも、私にはこの文字の羅列がどうしても読めない。
先生が読んでくれた授業を仕事で休んでしまったのが痛かった。

「もう、仕方ないなぁ。じゃあ一緒に読んであげるから、リピート・アフター・ミー」

そう言って人差し指を立てるなのは。
あぁ、ものすごく可愛い。今すぐに抱きついてしまいたいけど、そんなことをしたが最後、明日の古典がひどいことになるのは自明なので理性を総動員して何とか堪える。

「それじゃあ、いくよ。『祇園精舎の鐘の声』」
「ぎ、ぎおんしょうじゃのかねのこえ?」
「『諸行無常の響あり』」
「しょぎょうむじょうのひびきあり?」

そんな感じで『平家物語』の序文を読み上げるなのはと、それを繰り返す私。
うん、なんとか読めるようになった……と思う。

「ありがとう、なのは。これで何とかなり、そう?」
「なんで疑問形なの?」
「なんとなく不安になっちゃって……

読めたからといって暗記ができたわけじゃない。というより、暗記しなければ話にならない。
特にこの難しい漢字たちをどうにかしないと。

「よし、じゃあフェイトちゃんが古典でわたしよりいい点を取ったらご褒美をあげる」
「えっ!? 本当?」
「うんっ。だからがんばろうね」

なのはからのご褒美。この言葉を聞いてやる気が出ないほど私も馬鹿じゃない。
なんかなのはにいいようにされている気がするけど、それはそれ。
とにかくご褒美を目指さなければならない。

「よぉし、気合い入れて頑張らないと」
「わたしも。フェイトちゃんに負けないようにしないとね」

そうして私たちの勉強は続くのでした。
でもご褒美はともかく、なのはと一緒の時間を過ごせて私は最高です。
なのはもそう思ってくれていればいいな。

結局試験は同点。でもなのはは私にご褒美をくれました。
最初から私がそれなりの点数を取ればご褒美をくれる予定だったみたい。

それに甘えて私はご褒美を貪りました。

次の日が休みでよかったです。ふたりとも腰が痛くて立てないほどでしたから。